本研究は無毛部皮膚エクリン汗腺(ESG)の分泌維持におけるニューロトロフィン(NTs)の関与を形態学的に明らかにすることを目的とした。無毛部皮膚には脂腺がなく、物を掴む等の作業に用いる指尖や手掌では、ESGからの分泌物による湿潤状態の維持が重要である。ESGの分泌には、分泌部を支配する周囲の交感神経等へのNT作用の関与が示唆されてはきたが詳細は不明であるため、汎用実験動物であり物を掴む作業を日常的に行うラット前肢を対象として、免疫組織化学的手法によりNT作用の可能性を調べた。研究開始当初の予測に反し、NT作用のリガンド候補であったNTsの一種である神経成長因子(NGF)およびその受容体TrkAについては、良好な結果が得られていない。一方、別のリガンド候補であるneurotrophin3(NT-3)および受容体の一種であるp75免疫反応が成獣ラット足蹠にみられた。NT-3免疫反応はESG分泌部上皮内の筋上皮細胞に、p75は汗腺分泌部を取り巻く神経組織内にみられた。 平成29年度には、生後0、7、14日齢の幼若ラットについても調べた。既知の通り、生後14日齢には神経支配をもつESG分泌部が出現しており、成獣と同様にp75免疫反応が認められた。この免疫反応はp75受容体の細胞外あるいは細胞内ドメインに対する抗体の双方でみられた。さらに、コリン作動性ニューロンのシナプス小胞膜に対する抗体による免疫反応領域を調べたところESG分泌部周囲にその反応はみられ、多重染色によってp75免疫反応領域との重複が明らかとなった。本研究により、成獣ラット無毛部皮膚ESG分泌部周囲を支配するコリン作動性交感神経節後線維にはNT受容体p75が存在し、NT-3あるいはそれ以外のリガンドを細胞外ドメインを通じて受容することによるNT作用の存在が示唆された。
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