研究実績の概要 |
癌精巣抗原(CTA; Cancer Testis Antigen)は正常組織においては精巣にしか発現していないにも関わらず、癌組織においては有意に高発現していることが多いとされており、抗腫瘍免疫療法の理想的な標的となることが想定されている。その一方で、CTAが発現していてもほとんどの癌細胞は抗腫瘍免疫を回避することが知られている。本プロジェクトはヒト悪性黒色腫における癌精巣抗原(CTA; Cancer Testis Antigen)の発現解析およびその生物学的特性についての解析を行うことを通じて、CTAを発現している腫瘍細胞が抗腫瘍免疫を回避して生存する機序を同定することを目的としている。当初計画した患者血清を用いたプロテインアレイによる抗CTA IgGスクリーニングでは、複数の患者において有意に上昇する抗CTA IgGは得られなかったが、患者組織における免疫染色の検討においてはNY ESO-1, XAGE-1b, MAGEA4などのCTAの発現が一部の悪性腫瘍において有意に上昇していることを同定した。これらの患者において惹起される免疫反応に着目する過程で我々は脂質代謝にかかわる酵素であるMonoacylglycerol lipase(MGLL)の重要性に着目して解析を行っている。MGLLは、癌細胞の遊走、浸潤、生存を促す脂肪酸シグナル伝達ネットワークを調節しているという報告があるが、悪性黒色腫においては詳細な検討がなされていない。我々が集積したヒト悪性黒色腫の検体を用いた免疫染色では原発巣よりも転移巣の検体において有意に発現が上昇していることや、原発巣における脈管浸潤症例において発現が陽性になっていることが確認できた。今後はMGLLの発現が免疫系を中心とした腫瘍周囲環境にどのような影響を及ぼしているのかをCTAの発現度と比較しながら検討を進める予定である。
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