研究課題
インターフェロンガンマ(IFN-γ)は殺細胞効果や細胞増殖抑制効果を示すサイトカインである。しかし、固形腫瘍患者にIFN-γを投与した場合の臨床効果は芳しくなく、メラノーマの臨床試験においては寧ろ患者の予後に悪影響を及ぼす結果も出ている。このことからIFN-γは腫瘍形成に促進的に働く作用も有してると予想されるが、その機序は充分に明らかにされていない。我々は、逆相蛋白質アレイを用いた細胞内のキナーゼシグナリングネットワーク解析より、IFN-γがメラノーマの主要なシグナル伝達経路であるAKTシグナルを活性化させることを同定し、この活性化の機序に膜蛋白質であるCD74が関与していること示した。CD74は元来MHCクラスⅡのシャペロン蛋白として同定されたが、その一部が細胞膜表面に直接移送されてMacrophage migration inhibitory factor(MIF)の受容体として機能することが判明している。我々はメラノーマ細胞株を用いた検討により、IFN-γ刺激によって細胞表面にCD74の発現が誘導されることを確認。またCD74とMIFの相互作用がAKTシグナルの活性化や、腫瘍促進的に働くサイトカインであるIL-6やIL-8の分泌、抗アポトーシス蛋白であるBCL-2の発現に関与してることを同定すると共に、これらの作用がIFN-γ刺激によって増強することを示した。更に、マウスxenograftモデルを用いた検討では、IFN-γとMIFのアンタゴニストであるISO-1を同時に投与することで腫瘍の増殖抑制効果が得られた。更に、ステージⅢリンパ節転移患者検体を用いた検討では、CD74とMIFを両方発現している患者において予後が有意に不良であることを示した。以上より、CD74とMIFの相互作用はIFN-γの刺激より腫瘍細胞が生存を計る上で重要な役割を果たしていることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本年度で4年計画の3年目が終了した。計画当初においては3年目終了時点でインターフェロンγによって発現が上昇し、かつAKTシグナル伝達経路を活性化させるような因子を発見し、その因子の発現状況を患者検体において検討の上、臨床情報との相関を検討する予定であった。現時点ではその目標は達成し、学会や論文において学術報告も行っている。
CD74以外にもインターフェロンγによって発現が上昇するような因子があることが予想され、それらの検討も行う。
本実験は当初の仮説のとおりに順調に進捗しており、実験の失敗や当初必要と思われた種々の追加検討を必要とせずにここまで来られているため。
これまでに集積した、患者検体、腫瘍細胞株、およびそれらに対して種々の因子によって刺激後に抽出したRNAや蛋白質を用いて、CD74以外のメラノーマの進展に重要な因子を探索する予定である。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件)
Clinical Cancer Research
巻: 22 ページ: 3016-30
10.1158/1078-0432.CCR-15-2226.