研究課題/領域番号 |
26860896
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
上條 麻弥 順天堂大学, 医学部, 助教 (30723382)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 皮膚科学 / 紫外線 / ダリエー病 / プロスタグランジンE |
研究実績の概要 |
ダリエー病では、表皮細胞小胞体に分布するカルシウムポンプであるATP2A2遺伝子産物の低下が、皮膚症状を引き起こすと考えられている。本症患者で自然界の紫外線(UV)暴露から症状悪化に至るメカニズムを解明し、抗UV効果のある治療法を明らかにするため、平成26年度は培養表皮細胞において、PGE受容体の作用薬投与下、拮抗薬投与およぴプロスタグランジンE(以下PGE)受容体siRNA導入によるPGE受容体(EP1-4)発現の抑制下でUV照射を行い、ATP2A2発現の変化を明らかにした。測定はReal-time PCRでのPGE受容体mRNA定量、ATP2A2mRNA定量、ウエスタンブロット法によるATP2A2タンパク定量、Flow cytomeryによるPGE受容体タンパク定量により行った。 その結果、UV照射によってPGE受容体mRNA発現量が増加すること、PGE受容体siRNA導入によってUV照射なし/あり両者でPGE受容体mRNA発現量が低下することを、Real-timePCR により確認した。Flow cytometryによるPGE受容体のタンパク定量においても、同様の結果が得られた。 次に、siRNA導入によりEP1-4ノックダウンを行った培養表皮細胞において、UV照射を行い、UV誘発性のATP2A2発現抑制の変化を調べた。その結果、EP1-4のうち、ノックダウンによってATP2A2mRNAレベルが回復する、すなわちUV誘発性のATP2A2発現低下が抑えられるPGE受容体があることが、Real-time PCRでのATP2A2mRNA定量によって見出された。ウエスタンブロット法によるATP2A2遺伝子発現タンパク(SERCA2)定量においても、同様の結果が得られた。 これらの結果から、UV照射時のATP2A2発現に抑制的に関与することが示唆されるPGE受容体を選定を進めている。平成27年度はUV照射によるPGE産生から、関与の示唆されたPGE受容体のシグナル回路、小胞体カルシウムポンプの異常へと至るメカニズムを解明する計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ATP2A2発現に関連があると考えられるPGE受容体の選定のため投与実験を行った薬剤については、ATP2A2発現に明らかな変化が見られなかった。受容体阻害薬・拮抗薬の作用が、RNA発現段階でおきるのか、タンパク発現段階でおきるのか、発現後におきるのか、機序が不明であり、薬剤の効果を定量することが困難であった。投与効果の増強・減弱など時間毎の経過も考慮し、薬剤効果が不充分なのか、薬剤効果はあるがATP2A2発現に影響を及ぼしていないのかを、薬剤調整、実験条件を変更し結果を検証する作業を繰り返したため、時間を要した。そのため、計画を変更し、siRNA導入によるPGE受容体のノックダウン実験を行った。その結果、siRNAによるノックダウンが十分なされていたかを、RNAレベル、タンパクレベルで確認することができ、またATP2A2発現に関連が強いと考えられるPGE受容体の選定について、関連があると考えられるプロスタグランジン受容体を見出すことができた。 UV照射やsiRNA導入に伴うPGE受容体(EP1-4)発現量の変化については、Real-timePCRによるmRNA定量によって明らかにした。PGE受容体タンパク発現量の変化については、ウエスタンブロットにより測定したが、Flow cytometryによる測定も行って比較したところ、後者のほうがより明瞭にタンパク発現量の変化を示していた。 当初の計画と異なる手法を用いることにより、実験の準備等に時間を要したが、それにより新たな実験結果を得ることができた。平成26年度の実験結果から、PGE受容体のうち、ATP2A2発現に関与のある受容体があること、その受容体を選択的にノックダウンすることによりATP2A2発現が回復し、本症のUV照射による悪化が抑えられる可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、4種のPGE受容体のうち、各受容体ノックダウン下でのUV誘発性ATP2A2発現変化の評価が進行中のものについて、まずこれらを推進し、ATP2A2発現への関与がもっとも強いPGE受容体を同定する計画である。ノックダウンの手法については、平成26年度の実験結果から、培養表皮細胞へのsiRNA導入による方法を優先する。また、測定方法については、UV照射後のPGE受容体ンパク定量が、Flow Cytometryによって明瞭に示されたため、今年度も引き続きFlowcytometryを目的タンパク発現量の評価に用いる。ATP2A2発現に関して、阻害による抗UV効果の明らかなPGE受容体については、UV照射時にPGE産生から小胞体カルシウムポンプの異常へ至るメカニズムを解明するため、PGEシグナル回路を担うタンパク質のmRNA、タンパク質定量、細胞質カルシウム濃度勾配の変化を測定し、ダリエー病悪化時の疾患病態に迫る。ATP2A2発現への関与があると考えられるPGE受容体についてはsiRNA導入による抑制下でUV照射を行い、細胞内カルシウム濃度の回復状況を明らかにする。 平行してATP2A2遺伝子の転写調節因子Sp1の作用を探索する。Sp1はATP2A2遺伝子の転写調節に促進的な役割を担うとの報告、PGEにより活性化されるとの報告、PGE受容体EP4の活性化への関与などの報告があるため、Sp1のUV照射下での発現状況を明らかにする。Sp1のATP2A2回復治療への応用方法を探索するため、UV照射下、PGE受容体ノックダウン時のSp1発現量を、Real-time PCRによるmRNA定量、ウエスタンブロット法によるタンパク量定量により明らかにする。UV照射に伴うSp1発現増加が明らかな場合は、ATP2A2プロモーター領域への結合状況をプロモーターアッセイにより明らかにし、ダリエー病のUVでの悪化病態を詳細に解明する。これにより、小胞体カルシウムポンプ異常疾患である本症のUV照射時の病態、治療の奏功メカニズムを解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年6~7月の2か月間、産休のため実験を休止していた。 平成26年8月復職後、他の業務(他の医師が病欠の際の診療業務を行うこと等)を多く行わなばならない時期があり、細胞培養を用いた実験が困難となったため、細胞培養の必要な実験を休止し、実験結果の評価、論文作成準備などを行った。 そのため、実験に必要な物品の調達時期に偏りが生じ、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度は実験休止の期間中も、今後必要となる物品の調達準備を早めに行うことを心がける。
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