研究課題
平成27年度では、平成26年度の成果から得られた恐怖消去促進薬物候補であるデキサメタゾン(5mg/kgと10mg/kg)の効果を成体期メスを用いて検証した。その結果、両濃度とも恐怖消去トレーニング中の恐怖反応に影響を及ぼさなかったが、再発テスト時の恐怖反応を低下させる傾向が認められた(p<0.1)。今回、デキサメタゾンの効果が有意な差にならなかった原因として、サンプル数の少なさ(n=6/群)があげられる。今後、さらにサンプル数を増やしてデキサメタゾンの効果を確認する。これまで我々は、成体期のメスでは成体期のオスや思春期前期のメスに比べて恐怖消去トレーニングに抵抗性を示すことを見出している。本研究においてこの結果の再現性を得るのに成功した。次に、恐怖消去トレーニング後の背側海馬と内側前頭前野に対してDNAマイクロアレイ法を実施し、恐怖消去トレーニング後の遺伝子発現量に性差もしくは週齢差のある遺伝子を網羅的に探索した。その結果、1.5倍以上発現量に性差のある遺伝子を306個、週齢差のある遺伝子を248個得た。続いてこれらの遺伝子情報とバイオインフォマティクスを利用し、恐怖消去抵抗性を改善するのに効果的な薬物としてデキサメタゾンを得た。そして、デキサメタゾンの効果を検証し、デキサメタゾンが恐怖消去トレーニング効果を高める可能性があることが示唆された。本研究は、恐怖消去トレーニング後に発現する遺伝子の性差および週齢差について網羅的に調べた初めての研究となる。そのため、本研究の成果は恐怖消去トレーニングの性差や週齢差に関わる遺伝子を研究していくうえで、基盤的な研究となることが期待される。また、免疫抑制剤であるデキサメタゾンが恐怖消去を促進する可能性を得ており、本研究の成果は恐怖消去の制御機構に免疫システムの関与を提案するものとなった。
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