研究実績の概要 |
気分障害は一般人口において頻度の高い疾患であり、その生産性の喪失は甚大である。初発うつ病患者の約半数が再発し、その後、エピソードを繰り返すほどに再発しやすくなり、エピソードの長期化や間隔の短縮、重症度の上昇が知られている。本研究では、気分障害患者を対象として、縦断的に言語流暢性課題遂行中のNIRS測定及び症状や社会機能の評価を行い、状態像の変化や各種リスクファクターとNIRS波形パターンの関連について検討を行った。 その結果、(1)双極性障害患者33名と健常対照65名を対象とした検討で、双極性障害患者では前頭前野の広範な領域で課題中のoxyHb変化量が小さく、特に前頭極で社会適応度評価尺度(SASS)得点と正の相関を示した(Nishimura et al., in revision)。(2) 双極性障害患者18名・大うつ病性障害10名を対象とした縦断的検討(6ヶ月間隔)では、初回と6ヶ月後の差を算出し、NIRS信号と臨床指標との関連を検討したところ、oxyHb変化量の差は、双極性障害患者ではSASSの対人関係に関する下位得点の差と、大うつ病性障害患者ではSASSの興味とモチベーションに関する下位得点の差及び総得点の差と正の相関を示し(Ohtani et al., 2015)、気分障害の社会適応に前頭葉の活動が重要な役割を担うことを横断的・縦断的に明らかにした。(3)さらに、気分障害患者101名の初回NIRS波形パターンの解析では、双極スペクトラム傾向を評価する質問紙BSDSで双極性障害と判定される患者は、NIRS前頭部波形の課題開始5秒の賦活が緩やかな傾向を示し、双極性障害の波形パターンに類似することを見出した。これらの成果により、臨床指標とNIRS信号指標を組み合わせることで、将来的な診断変更や予後を予測できる可能性が示唆された。
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