研究実績の概要 |
本研究では、顕著なExt障害を呈するPTSDモデルであるsingle prolonged stress (SPS)パラダイムを用い、BDNFを海馬やmPFCのsubregionに投与することで、Ext障害の形成に関与するBDNFの役割を検討した。カニューレ留置のための定位脳手術の一週後にSPS処置を行い、さらに一週後に文脈的恐怖条件付け試験を行い、Ext障害を評価した。局所投与の標的領域は、IL mPFC、Prelimbic (PL) mPFC、腹側海馬とし、恐怖記憶のExtに関しては、恐怖条件付け24, 48時間後で評価した。 先行文献と同様に、PTSDモデルであるSPSラットは、恐怖記憶の消去障害を呈した。また、SPSラットでは、恐怖条件付け後の消去訓練直前におけるBDNF発現が、PFC、海馬ともに減少していた。次にIL mPFC、腹側海馬へのBDNF投与によって、SPS群と比較し恐怖条件付け24, 48時間後の時点で有意なすくみ行動の短縮を認めた。一方で、PL mPFCへのBDNF投与は、SPS群との間に有意なすくみ行動の変化をもたらさなかった。 SPSラットでは、消去訓練直前でのBDNF低下を認めており、PTSDの病態において、恐怖記憶の固定化促進と消去障害が共に存在する可能性が示唆された。 また、BDNF投与はPTSDの新たな治療手段となり得る可能性があり、また、これまで通常ラットにおいてBDNF投与後消去訓練なしでも恐怖記憶の消去が促進した結果があることから、安全な環境での訓練と無関係に改善効果を示す可能性も示唆された。
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