本研究は新規抗精神病作用の標的を探索することを目的とした。具体的には、臨床用量を反映したマウスにおける抗精神病薬慢性投与法の開発と統合失調症のマウスモデルにおける行動異常を指標に神経細胞、脳領域レベルで標的探索を行った。PETなどを用いた様々な臨床研究結果から、統合失調症治療における抗精神病薬による抗精神病作用には、線条体におけるドーパミンD2受容体占有率が65~80%であることが至適であることがわかっている。そこで本年度ではまず、液体クロマトグラフィー接続型質量分析装置(LC-MS/MS)を用いてマウス線条体のin vivoにおける抗精神病薬(定型抗精神病薬のハロペリドールと非定型抗精神病薬のオランザピン)慢性投与時の受容体占有率を解析することによって臨床用量(持続的な線条体D2受容体の65~80%占拠)を反映したマウスにおける抗精神病薬慢性投与法を開発した。また、前年度までに確認した疾患モデルとしてフェンサイクリジン(PCP)を慢性投与したマウスがワーキングメモリー障害を示し、PCP慢性投与マウスがワーキングメモリー課題負荷時に前頭前野皮質内部の前辺縁皮質2-3層における特異的な神経活性化亢進を示すことに加えて、背内側線条体と背側海馬CA3領域においても同様な異常を見出し、腹側被蓋野のinterfascicular nucleusにおけるドーパミン神経細胞の微細な神経活動低下を示唆する結果を得た。さらに、神経細胞レベルでの形態解析を行って、PCP慢性投与マウスが前辺縁皮質3層特異的な樹状突起スパイン減少、皮質―皮質間の興奮性シナプス入力低下、パルブアルブミン陽性GABA作動性神経細胞からグルタミン酸作動性神経の細胞体への抑制性シナプス入力低下を示すことを明らかにし、本疾患モデルマウスの前辺縁皮質における興奮性―抑制性神経のバランス異常を示唆する結果を得た。
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