研究課題/領域番号 |
26860943
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研究機関 | 獨協医科大学 |
研究代表者 |
倉冨 剛 獨協医科大学, 医学部, 助教 (00593592)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 気分障害 / 抗うつ薬 / 双極性障害 |
研究実績の概要 |
本研究では気分障害モデルマウスである変異DNAポリメラーゼγ (POLG) トランスジェニック (Tg) マウスに対して三環系抗うつ薬を長期投与して攻撃性や躁転様行動を誘発しその行動解析を行うことを目的とする。変異POLG Tgマウスは、うつ病様の行動異常や周期的な輪回し行動量の低下が報告されている。本年度は、変異POLG Tgマウスに対し、1. ケージ内社会性行動、2. アンヘドニア様行動の解析、3. 埋込型浸透圧ポンプを用いた三環系抗うつ薬の慢性投与条件の検討、を行った。 1. 変異POLG Tgマウス雌のヘテロ接合体を同腹の野生型雌とペアで24日間飼育しケージ内行動を動画撮影した後に、暗期開始直後の1時間について、社会性行動 (攻撃的・非攻撃的)、非社会性行動の頻度・時間を隔日で測定した。変異POLG Tgマウスは対照群のC57BL/6Jに比べ、社会性行動である採餌競合、鼻を用いた身体接触に費やす時間が有意に長く、追跡行動の頻度についても有意に多かった。一方で、非社会性行動である自己グルーミングに費やす時間が有意に短かった。以上の結果より、変異POLG Tgマウスは高いケージ内社会性行動を示す可能性が示唆された。 2. 24日間の社会性行動解析完了後にアンヘドニアの評価として用いられるショ糖嗜好性試験及び、未知の個体に対する社会性評価として用いられる社会性相互作用試験 (social interaction test) を実施した。いずれの試験においても、Tgマウスと対照群の間に有意な差異は認められなかった。 3. 変異POLG TgマウスおよびC57BL/6Jに対して、浸透圧ポンプを用いて4週間にわたり三環系抗うつ薬imipramineを投与し、HPLCで測定した血清中薬物濃度を指標として至適投与量を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画において本年度に進める予定であった、(1)「長期ケージ内社会行動解析」実験系の構築、(2)既存の行動試験との比較、(3) 三環系抗うつ薬の投与条件検討、についてはいずれも実施しており、計画はおおむね順調に進展している。 考慮すべき問題点は次の通りである。三環系抗うつ薬の慢性投与条件において、投与マウスの薬物血中濃度はヒト患者における治療濃度域であることが望ましいが、治療濃度域に達するようimipramineを高濃度で投与すると皮膚傷害を生じた。このため、治療濃度域以下のimipramineで今後の実験を実施し、並行して他の三環系抗うつ薬についても投与量の検討を行うこととする。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、(1) 三環系抗うつ薬慢性投与時における変異POLG Tgマウスの社会性行動解析、(2) 三環系抗うつ薬誘発性の行動変化に対する気分安定薬効果の解析、(3) 躁転様行動に関連する神経回路の探索、を実施する。具体的には以下のように推進する。 Imipramineを慢性投与した変異POLG Tgマウス雌のヘテロ接合体を同腹の野生型雌とペアで24日間飼育し、暗期開始直後の1時間について社会性行動 (攻撃的・非攻撃的)、非社会性行動の頻度・時間を測定することにより、三環系抗うつ薬慢性投与による攻撃性や躁転様行動の誘発を解析する。また、imipramineと治療濃度域の気分安定薬lithiumを同時に投与することにより、三環系抗うつ薬によって誘発される攻撃性や躁転様の行動変化を予防することが可能であるかを解析する。行動変化を示したimipramine投与群とimipramine + lithium投与群由来の脳サンプルを用いて、腹側線条体とその関連領域についてミトコンドリア機能、及び神経活性マーカー (c-fos) 発現領域の比較を行い、ミトコンドリア機能障害が生じており抗うつ薬誘発性の攻撃性・躁転様行動に伴って活性が変化する領域を探索する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由としては、試薬やプラスチック器具などの消耗品の節約が挙げられる。
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次年度使用額の使用計画 |
物品費として、ケージ内行動解析に用いるマウスケージ一式、投薬関連の消耗品(薬剤・浸透圧ポンプ等)、実験動物、組織学解析関連の試薬 (in situハイブリダイゼーション、免疫組織化学染色) 等の購入に用いる。旅費として、米国学会における学会発表の費用に用いる。その他の費用として、動物飼育費、論文校正・投稿費に用いる。
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