研究課題/領域番号 |
26860974
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
村田 泰彦 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (40716172)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | mTOR / 低栄養 / 低酸素 / 放射線抵抗性 / 癌幹細胞 |
研究実績の概要 |
近年、低酸素/低栄養状態などのストレスに応答後、細胞増殖の停止およびオートファジーの活性化において中心的な役割を担うmTORの放射線感受性への関与が報告されている。低酸素/低栄養状態は癌幹細胞や潜在的致死損傷からの回復(PLDR)に深く関与していると考えられている。本研究の目的は、低酸素/低栄養状態での放射線抵抗性に対するmTORの関与を明らかにし、癌幹細胞等の低酸素/低栄養状態での放射線抵抗性を選択的に解除する分子標的を探求することである。 研究代表者は、既に低栄養状態でmTORが活性化する細胞と不活性化する細胞を発見し、低栄養状態による放射線感受性の変化との相関を見出していた。まず、mTORの活性化に関連する作用因子としてmTOR活性を抑制するAMPKおよびmTOR活性を亢進するAktの活性化を解析したところ、コントロール細胞を含む全ての細胞株において活性化されていた。また、mTOR活性化に関連する別の作用因子としてATMおよびHIF-1alphaの活性化も解析したが、mTOR活性化との関係は認められなかった。低栄養状態におけるmTORの活性化にはAktの活性化が関与する可能性が考えられる。次に、放射線感受性とmTORとの関係を明らかにするため、低栄養状態においてsiRNAまたはラパマイシンによるmTOR特異的な抑制を試みたところ、低栄養状態でmTORが活性化する細胞の放射線感受性の低下が認められた。また、細胞周期解析も行ったが、低栄養状態でmTORが活性化する細胞において放射線抵抗性となるS期の割合は増加しており、放射線高感受性との関係は認められなかった。以上のことから、低栄養状態でmTORが活性化する細胞におけるmTORの放射線抵抗性への関与の可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度では、低栄養状態でmTORが活性化される細胞の放射線高感受性にmTORが関与する可能性を示すことができた。これは代謝と放射線感受性の関係性を示唆しており、低酸素状態だけでなく、低栄養状態も放射線感受性に影響を与える要因のひとつになり得ると考えられ、意義深い。このことから実験結果としては、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
低栄養状態でmTORが活性化される細胞において放射線抵抗性にmTORが関与する可能性を示した。今後の研究の推進方策としては、低酸素かつ低栄養状態におけるmTORの活性化が放射線感受性に及ぼす影響を解明する。腫瘍組織は正常組織に比べ低酸素かつ低栄養状態にあり、また放射線抵抗性であることも踏まえると、mTORの活性化が放射線抵抗性に関与している可能性が高い。実験の方向性としては、コロニーフォーメーションアッセイによる低酸素かつ低栄養状態における細胞の生存率解析、ウェスタンブロット法によるmTOR活性化および上下流のシグナル伝達解析やsiRNAによるmTORの特異的抑制を実施し、低酸素/低栄養状態での放射線抵抗性に対するmTORの関与を明らかにする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入した細胞株を用い、実験検討を行っていたところ、購入先から購入細胞株のマイコプラズマへの感染報告があり、細胞株の使用中止、他細胞株への影響確認や実験条件の再検討などが必要となった。これにより実験の進行に遅れが生じたため当初に予定していた消耗品の購入が停滞し、当該助成金が生じた。 平成27年度以降は、当該助成金および翌年度の請求助成金を合わせた使用を計画している。
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次年度使用額の使用計画 |
低酸素かつ低栄養状態におけるmTORの活性化が放射線感受性に及ぼす影響を解明するために以下の消耗品を使用予定である。タンパク質検出に係る抗体やメンブレン類、細胞培養実験に用いる新規細胞株、培養液、ディッシュ、ピペット等の細胞培養関連製品に加え、siRNAの作成・購入、阻害剤の購入といった消耗品を想定している。また、学会参加や打ち合わせ等の出張に伴う旅費、その他、論文投稿に係る英文校正や投稿料などが見込まれる。
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