腫瘍組織内において酸素/栄養状態は毛細血管からの距離に従って低下し、一部の細胞群は放射線抵抗性を獲得する。放射線治療成績の向上には低酸素細胞の放射線抵抗性の克服が重要であるが、臨床的に考えた場合には低酸素細胞は必ず低栄養状態にあり、低栄養状態が放射線感受性に及ぼす影響も同様に重要となる。そして低栄養状態と細胞の放射線感受性との関係は不明な点が多い。本研究の目的は、低酸素/低栄養状態での放射線抵抗性に対して、栄養センサーとして知られるmTORの関与を明らかにし、癌幹細胞等の低酸素/低栄養状態での放射線抵抗性を選択的に解除する分子標的を探求することである。 研究代表者は、前年度までに実施した研究により、通常、低栄養状態では抑制されるmTORC1の活性がヒト肝癌細胞株HepG2においては活性化され、mTORC1の活性化がHepG2細胞の低栄養状態における放射線高感受性に関与することを明らかにした。本年度は、低酸素かつ低栄養状態における放射線抵抗性に対するmTORの関与について検討した。実験検討には、前年度と同様にヒト繊維芽細胞株LM217およびHepG2細胞を用い、コロニーフォーメーションアッセイによる生存率解析を行った。低酸素状態においてHepG2細胞は通常培養条件より10倍程度の高い放射線抵抗性を示し、低酸素/低栄養状態においては放射線高感受性を示した。LM217細胞は低酸素状態において通常培養条件より10倍以上高い放射線抵抗性を示したが、低酸素/低栄養状態においてはより高い放射線抵抗性を示した。また低酸素/低栄養状態では、いずれの細胞株においてもmTOR活性は抑制されていた。LM217細胞の低酸素/低栄養状態における放射線抵抗性にmTORの系が関与する可能性が考えられる。
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