研究実績の概要 |
研究1)食道癌術前化学療法症例50例の化学療法前後の食道癌組織において、癌幹細胞マーカーであるCD44、CD133の変化を免疫染色で検証した結果、CD44, CD133陽性細胞数はともにほぼ不変だが、発現強度は化学療法後に有意に増加した。この結果から癌幹細胞マーカーの発現する癌細胞には抗癌剤耐性が備わっていることが示唆される。また、化学療法前のCD44強発現、CD133高陽性率、腫瘍縮小効果不良が有意な予後不良因子であった。その他の癌幹細胞マーカーやEMTマーカーに関しては検討中である。 研究2)ヒト食道扁平上皮癌細胞株TE9に対してX線2Gyを単回照射したところ、48時間後には細胞の形態および蛋白発現(E-cadherin, Vimentin, β-catenin、αSMA、HIF-1α、TGF-β、Smad2/3、Slug, Snail, twist)においてEMT誘導を示す変化が見られ、Invasion assay やMigration assayにて有意な浸潤能・遊走能向上が見られた。これらの結果から、放射線照射によりEMTが誘導されることが示唆された。なお、培養上清中のTGF-β濃度はX線照射により有意に増加したことより、放射線誘導性EMT誘導にTGF-βが深く関与する可能性が示唆された。癌幹細胞分画の評価は次年度にかけて実施する。 研究3)TE9に対してmTOR阻害剤であるmetformin を1mM以上の濃度で添加すると、有意な増殖抑制効果が見られた。同濃度では有意な殺細胞効果は見られなかった。Metformin 0.25mMをX線照射前に添加しておくことによって、研究2で見られた照射後の細胞の形態および各種EMTマーカー蛋白発現に表現されるEMT誘導が抑制され、浸潤能・遊走能も有意に抑制された。この結果は、放射線誘導性EMT誘導がmetforminの照射前投与により抑制されたことを示唆する。 研究4)食道癌細胞株におけるmetformin 添加による癌幹細胞分化誘導抑制効果に関する研究を予定していたが、次年度にかけて実施する予定である。
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