研究実績の概要 |
ヒト食道扁平上皮癌細胞株における放射線照射による上皮間葉移行(EMT)の誘導(細胞形態変化、上皮系蛋白発現の低下、間葉系蛋白発現の増強、浸潤能の上昇)を蛍光免疫染色、Western blotting法、Invasion assay、Gelatin zymographyを用いてin vitroにて確認した。 食道扁平上皮癌細胞株に対するMetformin添加による1mM以上の濃度では濃度依存性の増殖抑制効果を認めた。増殖抑制効果を有しない0.5mM濃度のMetformin照射前添加にて、培養上清中のTGF-β1濃度の抑制を認め、放射線誘導性EMTが抑制されることを確認した(E-cadherin, N-cadherin, Vimentin, αSMA, HIF-1α, TGF-β1, Slug, Snail, TwistなどのEMT関連誘導蛋白・転写因子の発現変化や浸潤能・遊走能の変化を検討)。また、これらの反応は、HIF-1発現低下に伴うTGF-β発現抑制を介するSmad経路と、AMPK・Akt-mTORc1のリン酸化を介する非Smad経路の双方を介して起こることを証明した。 Metforminは食道扁平上皮癌における放射線抵抗性を改善し、さらに放射線照射の細胞増殖抑制効果や放射線誘導性EMT抑制効果を増強する可能性が示唆された。 ヌードマウス(Balb/c)を用いた食道癌細胞株直腸移植モデルを作成し、2.5mg/mL濃度のMetformin溶解飲料水投与を行ったところ、Control群と比較して腫瘍重量および腫瘍サイズにおいて有意な腫瘍増殖抑制傾向を認めた。 今後更なる検討課題として、in vivoでの放射線誘導性EMTや癌幹細胞形質への影響の証明などにつき検討し、さらにMetformin投与によるEMT誘導や癌幹細胞形質の獲得の抑制効果を介して、食道癌治療に相加相乗効果をもたらす可能性について評価したい。
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