最終年度は前年度に引き続き、神経細胞とグリア細胞との間におけるグルタミン酸ーグルタミン(Glu-Gln)サイクルの機能異常が14C標識酢酸の取り込みにどのような影響を与えるかについて、Glu-Glnサイクルの一部過程を阻害する種々の試薬をラット脳内に微量注入することにより検討を行った。また14C標識酢酸の集積のみならず局所脳血流量の変化も評価した。その結果、グリア細胞へのグルタミン酸の取り込みの過程を阻害するジヒドロカイニン酸をラット脳内に微量注入することにより14C標識酢酸の取り込みが低下し、局所脳血流量は反対に増加した。本結果より、グリア細胞へのグルタミン酸の取り込み過程が14C標識酢酸の集積に影響を与えていると考えられた。また、グリア細胞内のグルタミン合成酵素を阻害した場合においても14C標識酢酸の集積が低下したが、局所脳血流量も同様に低下していたため、グルタミン合成酵素阻害時における14C標識酢酸の集積低下は局所脳血流の低下による影響が大きいと考えられた。 本研究を通して、ラット脳への14C標識酢酸の集積低下は神経細胞やグリア細胞が損傷を受けている状態を反映し、またGlu-Glnサイクルのうち特にグリア細胞へのグルタミン酸の取り込みの過程が14C標識酢酸の脳内集積に影響していることが示唆された。今後は、グリア細胞の機能不全の関与が示唆されているうつ病等の疾患モデル動物を用いて14C標識酢酸の集積を検討することにより、標識酢酸がうつ病等の病態解明や診断に利用できるか検討する必要があると考える。
|