研究課題
本研究では、二酸化チタンを原料として合成した過酸化チタンナノ粒子がX線照射により大量の活性酸素種(Reactive Oxygen Species, ROS)を生成することを利用して、これまでにないチタン酸化物ナノ粒子を用いた放射線増感療法を開発し、膵臓癌などの難治癌に対する新たな治療戦略を提案することを目的とする。本年度は研究計画に従い、主に腫瘍組織内でのナノ粒子のROS生成の評価およびナノ粒子投与による有害事象の評価を実施した。腫瘍組織内でのナノ粒子のROS生成の評価では、組織内での ROS の増加および生成するROSの種類を調べた。生体内の細胞には多くのROS消去酵素が存在しているため、Cell-freeの実験系と同等量のROSが生成しているとは考えにくい。実際に過酸化チタンナノ粒子にいくつかの酵素を加えてX線照射したところ、ROSの生成量が抑制される結果を示した。実験は複数のROS検出試薬を用いて腫瘍組織を染色し、フローサイトメトリーにより測定した。In vitroで実施した結果、細胞内において過酸化チタンナノ粒子とX線照射の併用によりヒドロキシラジカルおよび過酸化水素が増強されることが示された。コロニー形成法による細胞生存の評価においては、併用による有意な殺細胞効果を認めた。電子顕微鏡下の細胞の観察では、細胞内に取り込まれたナノ粒子像が示された。毒性評価においては、未修飾の過酸化チタンナノ粒子を投与した場合、肺胞壁もしくは毛細血管内に塞栓物が生じ、それによる急性期有害事象が認められた。しかし粒子表面にポリアクリル酸を修飾してマウスへ血中投与したところ、約2ヶ月の観察期間内で有意な有害事象や体重変化は認められなかった。表面修飾した状態でも十分なROSが生成することを示し、抗腫瘍効果を得た。
2: おおむね順調に進展している
本年度は研究計画に従い、主に腫瘍組織内でのナノ粒子のROS生成の評価およびナノ粒子投与による有害事象の評価を実施した。有害事象の評価においては、さらなる長期の観察および各臓器における病理的評価が必要である。抗腫瘍効果のための最適なナノ粒子の投与量とX線照射線量の検討に関しては、現在実施中であり、次年度も継続する。
研究計画に従い、本年度から実施している抗腫瘍効果のための最適な粒子投与量とX線照射線量の検討、急性期および晩期の毒性評価を中心に引き続き行う。また、多種類の癌細胞に対する抗腫瘍効果の評価も行う。いずれも本年度と同様の実験系で遂行する。
実験手法の一部に変更があったため。
研究計画に従い使用する。
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