研究課題
本研究では二酸化チタンを原料として合成した過酸化チタンナノ粒子がX線照射により大量の活性酸素種(Reactive Oxygen Species, ROS)を生成することを利用して、このナノ粒子が新たな放射線増感剤として臨床応用に展開するため、動物実験を中心としてその有効性を明らかにするとともに、その毒性について評価を行うことを目的とする。動物実験の前段階としてがん細胞のみのin vitro実験において、複数のROS検出試薬を用いて過酸化チタンナノ粒子を作用させた細胞にX線照射を行い、細胞内においてもROSが生成されるか調べた。その結果、ヒドロキシラジカルと過酸化水素の2種類のラジカルの増加がみられた。またDNAの二重鎖切断を評価するγH2AXアッセイおよび細胞の増殖能を評価するコロニーアッセイを実施し、いずれも過酸化チタンナノ粒子とX線照射の併用群において有意な差を認めた。これらの結果から、過酸化チタンナノ粒子が細胞内においても十分なROSを生成することを示した。次にヒト膵臓がん担癌ヌードマウスを用いた in vivo 実験において、過酸化チタンナノ粒子を腫瘍に局注投与し X 線照射をした群では、X 線照射単独群に比べて著明な抗腫瘍効果が得られた。ナノ粒子を投与したマウス群で43日の観察期間内に死亡したマウスはおらず、コントロール群と比べて顕著な体重変化や肉眼的変化は見られなかった。またナノ粒子を尾静脈投与したマウスの2週間の観察においても、主要臓器の病理的観察や血液検査で異常は認められず、このナノ粒子投与による急性毒性は低いと考えられる。In vitro実験と同様にγH2AXアッセイでは併用群でDNA二重鎖切断の有意な増加を認めた。細胞のアポトーシスを評価するTUNELアッセイにおいても、併用群で有意差を認めた。これらの結果から、過酸化チタンナノ粒子はX線照射との併用により抗腫瘍効果を増強し、新たな放射線増感剤になり得ることが示唆される。
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