α線放出核種の一つである211Atを内用放射線治療に応用するため、211Atの短い半減期(7.2 h)に適した速やかな体内動態を示す抗体フラグメントの211At標識薬剤の開発を行った。抗体フラグメントは速やかな体内動態を示す一方で、腎臓において放射能が長時間観察されることが治療に大きな制約を与える。本薬剤では、これまでヨウ素標識薬剤で腎集積の低減に成功した代謝性リンカーを導入する薬剤設計を適用した。本設計では、腎臓の刷子縁膜酵素による認識を受けることで代謝性リンカーが開裂し、尿排泄性の高い放射性代謝物が遊離する。本年度に作製した211At標識抗体Fabフラグメントは意図した通り腎臓の集積を投与早期から低減することに成功し、腎臓における代謝を利用する薬剤設計が211At標識薬剤に適用できることを認めた。一方で、胃への集積が投与後の時間経過とともに増加しており、211Atが生体内で抗体フラグメントから脱離したことが示唆された。今後、211Atを安定に結合させることで、より実用性の高い211At標識薬剤の開発が期待できる。 211Atは半減期が短い一方で、その標識薬剤は比較的高分子への応用例が多く示されている。これは、211At標識低分子化合物の生体内における安定性が低いと考えられているからである。211At標識Fabの実験結果を受けて、安定な結合方法を検討したところ、211At標識アミノ酸誘導体が生体内で安定に存在することが明らかとなった。この結果はこれまでの通説を覆すものであり、本標識技術を応用することで、抗体フラグメントの211At標識薬剤の安定性を改善できる可能性をもつ。今後標識部位にアミノ酸誘導体を用いた標識薬剤の開発を実施し、安定性の改善を図る予定である。
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