残胃小彎胃粘膜生検サンプル採取および臨床データ収集・血液サンプル採取に着手し,本年度手術予定となった患者は全例,術前胃小彎および穹窿部の生検サンプルが採取することができた.Preliminaryなデータではあるが,実施計画書に記載した仮説どおり,穹窿部グレリン発現量が最も多く,ついで,体上部大彎>体中部大彎>体下部大彎>体部小彎となることが確認できた.さらにグレリンホルモン活性化酵素であるGOATについてもmRNA発現量を解析し,同様の発現状況を確認した.特に3例の患者については,LSG術後残胃小彎グレリンmRNA発現量定量を行い,リバウンドした2症例についてはグレリン発現量増加を認めたが,リバウンドのない症例では低発現であった.糖尿病との関連については,症例ごとに異なりはっきりしないものの,インスリン感受性に影響している可能性も示唆され追跡調査が必要である. 動物実験については計8匹のLSGを施行し,3匹のマウスの生存および体重推移の観察が可能であった.体重は一旦減少し,すぐに術前体重に回復した.この3匹のマウスについては血中グレリン値の測定,術後リバウンド後において,RT-PCR法によるグレリンmRNA発現量定量(残胃小彎,十二指腸,膵臓,脳),残胃小彎についてはグレリン細胞数カウント(免疫染色)を行った.コントロールマウスと比較し,小彎グレリン細胞数はLSG術後残胃の方が多く,またmRNA発現量の解析では,コントロールと比較しても十二指腸,膵臓,脳でグレリン発現量の変化は認めなかった.よって,LSG術後のグレリン回復,体重増加については,胃外グレリン産生臓器の代償発現増加ではなく,残胃小彎におけるグレリン発現増加が原因である可能性が高いことが示唆された.本結果は,LSG術後のリバウンドに対する残胃小彎粘膜切除など新規治療の開発に応用可能で,重要な意義を持つものと思われる.
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