タキサン系薬剤は、乳癌治療におけるキードラッグの一つであり、初発治療から再発治療に至るまですべての乳癌治療において重要な役割を担う薬剤である。しかし、タキサン系薬剤に抵抗性を示す乳癌がしばしば経験され、大きな臨床的課題となっている。また、近年、次世代シーケンサーの登場により、膨大かつ正確なゲノム情報が短時間に得られるようになり、これらのデータを元にして、特定の体細胞変異が、分子標的治療への効果や抵抗性に関与することが報告された。本研究では、複数のタキサン抵抗性乳癌を対象に全エクソンシーケンス解析を行うことにより、共通する体細胞変異を見出し、その機能解析を通して、タキサン抵抗性メカニズムの解明とその克服を目指すことを目的とし、研究をおこなった。 アンソラサイクリン系薬剤が著効したにもかかわらず、タキサン系薬剤を投与後、腫瘍が著明に増大してしまった6症例の凍結乳癌組織から、とそのうち3症例の血液からもDNAを抽出した。この計9検体を対象にHiSeq (Illumina)を使用して全エクソンシーケンスを行った。それらの結果から、生殖細胞変異の除外、すでに報告のある変異の除外、蛋白構造への影響の大きさの予測、共通の変異の抽出などを考慮して、タキサン抵抗性へ関与が強いと思われる変異に絞り込んだ。次に、当院で術前または術後化学療法でタキサン系薬剤を使用した約122例からtotal RNAを抽出し、前述の変異が存在する遺伝子発現を測定、予後との相関を検討した。 その結果、タキサン抵抗性症例において6例に共通する変異を9箇所、5例に共通する変異を16箇所見出した。変異の存在する遺伝子X、YのmRNA発現が高値の症例では、有意にdisease free survival (DFS)が不良であったが、overall survival (OS)では有意差を認めなかった。
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