乳癌細胞の生存増殖を支えるための2大増殖経路(シグナルパスウェイ)である、エストロゲンレセプター(ER)とHER2蛋白が高発現している乳癌(トリプルポジティブ乳癌)に対する治療戦略は、シグナルパスウェイがお互いに干渉する、クロストークについての詳細が解明されていないために、いまだ正確な道筋はできていない。 そこでクロストークを解明するために、我々はまずトリプルポジティブ乳癌細胞株であるBT474を用い、細胞内HER2シグナルを遮断し続けた後のシグナルパスウエイの変化を見るために、ハーセプチン長期耐性株(BT474-R)を樹立した。 BT474とBT474-Rを比較すると、ERの標的遺伝子の1つであるプロゲステロンレセプターが親株では弱陽性であったのに対し、ハーセプチンによる耐性を獲得後はPgRの更新が認められたことから、HER2シグナルを長期遮断することにより、ERシグナルが亢進する、つまり生存におけるERシグナルへの依存度が上昇することが分かった。 次にBT474、BT474-R細胞株を用いて、遺伝子発現の変化についてアジレントマイクロアレイ(MBL)による遺伝子発現解析を行った。ウエスタンブロット法で解析した際には、BT474-RにおいてER、ERの下流の遺伝子であるPgRの発現亢進が認められたが、遺伝子発現解析において、mRNAで4倍以上上昇していた遺伝子群(307個)を選びパスウェイ解析を行ったところ、エストロゲンを産生するために必要な遺伝子系の活性化が認められた。蛋白の発現だけでなく、遺伝子発現の変化においてもエストロゲンを産生する、つまりERシグナルへの依存度が高くなることを表すことができた。本研究は研究協力者である順天堂大学堀本義哉准教授の協力のもと研究継続を行っている。
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