TGF-βは種々の癌の化学療法抵抗性に関与し、EMTを誘導する代表的因子である。胆道癌におけるTGF-βと化学療法抵抗性、EMTとの関連を明らかにするために、TGF-βのノックダウン実験を行った。qRT-PCRによる親株とゲムシタビン (GEM) 耐性株の比較において、TGF-βは耐性株で高発現がみられた。siRNAを用いてTGF-βをノックダウンすることで、耐性株の化学療法抵抗性が減弱することをMTT assayを用いて確認した。さらに、qRT-PCRの結果から、耐性株においてTGF-βをノックダウンすることで、上皮系マーカーの発現上昇、間葉系マーカーの発現低下を認め、EMTが抑制されることを確認した。これらの結果から、胆道癌においてTGF-βは化学療法抵抗性に重要な役割を持ち、TGF-βの発現を抑制することでEMTおよび化学療法抵抗性の抑制につながる可能性が示唆された。 さらに、前年度に示されたvorinostatのin vitroでのEMTおよび化学療法抵抗性抑制作用について、in vivoでの効果を検討した。胆道癌細胞株であるMzChA-1とGEM耐性株 (MzChA-1_GR) をNOD/SCIDマウスの皮下に注射することで親株とGEM耐性株の皮下腫瘍モデルを作成しGEMと併用することでのvorinostatの効果を検討した。その結果、GEM耐性株の皮下腫瘍モデルにおいて、GEM単剤群と比較してGEM + vorinostat併用群で生存期間の有意な延長を認めた。転移巣の比較では、GEM + vorinostat併用群ではGEM単剤群よりも転移巣のサイズが小さい傾向がみられ、転移が抑制されていると考えられた。GEM耐性株の皮下腫瘍モデルにおいて、増大した皮下腫瘍と転移巣 (肺) の腫瘍組織を採取し、SMAD4の免疫組織化学染色を行ったところ、皮下腫瘍、転移巣共にGEM単剤群では核が強く染色されたのに対し、GEM + vorinostat併用群では核はほとんど染色されなかった。 これらの結果から、vorinosatatは生体においてもSMAD4の核内移行を抑制することで転移を抑制する可能性が示唆された。
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