再生医療で発達したリプログラミング技術を癌細胞に用いることで体性幹細胞様の形態をとるだけでなく癌細胞の悪性能を減弱化し、獲得していた薬剤耐性を解除することを報告してきた。リプログラミング方法として当初から用いられている4つの転写因子を使用した手法には癌遺伝子であるc-Mycを含んでいるなど問題も含まれているため、様々な別手法が模索・開発されているが、ES細胞のマイクロアレイ情報から幹細胞維持に必要としている候補microRNAを同定しこれらの導入による体細胞のリプログラミング方法を開発し使用している。この方法で得られた癌細胞への効果は、永続的に維持することが困難な可逆的な変化であることからエピジェネティクス機構が関与していると考えた。そこで、用いたmicroRNAの標的遺伝子群に関連するエピジェネティクス機構を検討し、これが治療標的になると仮説を立てた。最も影響が強かったmiR-302に着目しmiR-302単独導入で肝癌細胞株に今まで報告してきたものと同様の効果が得られることを確認した。そこでmiR-302の複数の標的遺伝子のエピジェネティック関連分子LSD1/2、MECP1/2のLSD1に着目した。LSDはヒストンの脱メチル化により様々な遺伝子の転写を抑制することが報告されており主要な働きをしている場合はLSD阻害剤の使用で同様の効果が得られることが期待できる。miR-302の導入肝癌細胞で形成されたSphereの癌細胞ではLSD1の発現低下を確認し、ヒストンH3-K4の脱メチル化が抑制されていることを確認した。LSD1をノックダウンした細胞株ではSphereの形成が認められ、H3-K4の脱メチル化が抑制され、抗がん剤への感受性が増してアポトーシスが亢進することを確認した。今後さらにLSD1のノックダウンにて癌細胞の悪性能が同様に減弱化されるのか検討を行う予定である。
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