研究実績の概要 |
目的:生体肝移植でドナーが老年の場合、移植された肝臓が再生しにくく生着率が悪いことが知られている。しかし、未だに画期的な改善方法が確立していない。そこで本研究では、肝臓の老化を支配する抗老化遺伝子群に着目し、虚血再灌流障害と肝再生不全に対し、それら抗老化遺伝子群の発現制御がどのような効果をもたらすのか、また抗酸化物質(レスベラトロール)が虚血再灌流障害を改善しないかを明らかにする。 方法と結果: 1.生体肝移植症例中、50歳以上ドナー(高齢ドナー)からの肝移植は49例施行した。ドナー肝ゼロ生検を用いて、肝内マクロファージ(CD68陽性細胞)を測定した。若年ドナー(20歳代)と比べると、高齢ドナー(50歳以上)では、CD68陽性細胞は有意に数が少なく、有意に感染症発症を多く認めた。多変量解析では、グラフト不全に関わる因子は、ドナー肝内CD68陽性細胞12未満であった。 2.高齢マウスと若年マウスに群別して、虚血再灌流モデルを用いて、A.肝切除のみ、B.虚血再灌流+肝切除、C.レスベラトロール内服+虚血再灌流+肝切除で肝障害、組織中のSirt1発現、炎症性サイトカイン(TNFα, IL-6, IL-1β)、抗酸化(HO-1)を比較検討した。レスベラトロール投与後、高齢群、若年群ともSirt1増加は認めなかった。レスベラトロール投与により、肝障害の軽減、抗炎症効果に差を認めなかった。レスベラトロール投与を行い、虚血-再灌流傷害、肝切除を施行した群で、明らかな炎症性サイトカインの改善は、認めなかった。 考察:高齢ドナーからの肝グラフトでは、肝内マクロファージが低下、特に低下しているグラフトでは、グラフト不全を有意に引き起こしていた。今回、抗酸化物質(レスベラトロール)による老化遺伝子の発現は上昇せず、虚血再灌流障害による肝切除後の炎症サイトカインや抗酸化を改善しなかった。
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