研究課題/領域番号 |
26861097
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研究機関 | 和歌山県立医科大学 |
研究代表者 |
家田 淳司 和歌山県立医科大学, 医学部, 学内助教 (50637907)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 大腸癌 / 線維芽細胞 / 間質 |
研究実績の概要 |
これまで、当科では接着分子であるCEACAM1(Carcinoembryonic antigen-related cell adhesion molecule 1)に着目し、CEACAM1のisoform balanceが変化することにより、癌の形態が変化すること(Yokoyama et al. Oncogene, 2007)や、癌浸潤先進部における形態変化、脱分化と癌の浸潤、転移に関する報告を行ってきた (Oku et al. Clin Cancer Res, 2008)。そして大腸癌の先進部においてCEACAM1のisoform balanceの変化が大腸癌の浸潤・転移に関与することを報告してきた(Ieda et al. Int J Cancer, 2011)。 また近年では、癌間質におけるCarcinoma-associated fibroblast (CAF) が癌の増殖、血管新生、転移などのプロセスに関与するいう報告がされている。しかし、CAFの発生機序やCAFと癌との相互作用のメカニズムについては未だ不明な点が多く、その働きについても不明である。 乳癌細胞においてはNOD/SCID mouseを用いてCEACAM1 isoform balanceの違いにより癌間質の線維芽細胞がCAFである筋線維芽細胞へと分化誘導されるという報告はされている(Yokoyama et al. Oncogene, 2007)。 しかし、乳癌以外の癌細胞や臨床検体においてはCEACAM1 isoform balanceの変化による癌細胞の形態変化と癌間質の形態変化の関係について検討した報告はない。 本研究において、基礎的、臨床的研究を行うことにより、CAFに関する癌の増殖、転移に関するメカニズムを明らかにすることにより、大腸癌の浸潤や転移を抑制する新たな治療の開発につながるものと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
和歌山県立医科大学附属病院で大腸癌切除手術をうけた患者を対象とし、パラフィンブロックから薄切標本を作成した。大腸癌臨床検体を用いて、癌浸潤先進部の形態変化、癌間質の変化について検討した。64例の症例でCAFである筋線維芽細胞のマーカーであるvimentin, a-smooth muscle actinに対する抗体を用いて免疫組織化学染色を施行し、リンパ節転移や血行性転移との関連について検討を行った。vimentin の発現と転移については有意な関連を認めなかった(p=0.18)。a-smooth muscle actin の発現と血行性転移については関連は認められなかったが(p=0.06)、a-smooth muscle actinが発現している症例は有意にリンパ節転移が多かった(p=0.04)。このことから、癌浸潤先進部でのCAFの発現は、リンパ節転移に関与することが示唆された。また、b2-integrinの発現とリンパ節転移、血行性転移に関する検討を行った。b2-integrinが発現しているものでは、有意にリンパ節転移、血行性転移が多くみられた(p=0.0004, p=0.0001)。各マーカーの発現と生存率に関する検討をlog rank testにて行った。a-smooth muscle actinの発現は生存率に有意な差は認めなかったが(p=0.22)、b2-integrinを発現している症例は生存率が不良であった(p=0.006)。各マーカーとCEACAM1 isoform balanceの関連について検討した。CEACAM1-long優位であるものとvimentin, a-smooth muscle actin の発現には有意な関連は認められなかった(p=0.46, p=0.55)。しかし、CEACAM1-long優位であるものと、b2-integrinの発現には有意な関連を認めた(p=0.03)。 基礎的検討で予定していた大腸癌組織、正常組織からの線維芽細胞の抽出ができていないため、in vitroでの研究がすすんでいない。
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今後の研究の推進方策 |
今後、さらに症例を増やし、臨床病理学的因子を含めた詳細な検討を行う予定である。また、大腸癌組織、正常組織から線維芽細胞の抽出し、in vitro, in vivoでの基礎研究を行う予定である。大腸癌手術時、腫瘍摘出直後に腫瘍部位から組織を採取する。また、対照として腫瘍から5cm以上離れた正常組織を採取する。採取した組織はcollagenase type Iとhyaluronidase を用いて37℃で18時間分離、培養する。分離した組織を室温で5分間攪拌させたのちに、線維芽細胞を多く含む上清を新しい試験管に移す。250G5分間で遠心分離後沈殿物を再度培養する。 ①in vitroにおけるCAFと正常組織線維芽細胞の違いに関する検討:HT29, LS174T, HCT116の3種類の大腸癌培養細胞を使用する。各培養細胞とCAFと対照となる正常組織線維芽細胞をそれぞれ1:3の割合で混ぜて培養を施行する。 ②マウスxenograft modelを用いたin vivoでの検討:各培養細胞を1x106個と各線維芽細胞を3x106個を混ぜ、NOD/SCID マウスに皮下注射し、マウスxenograft modelを作成する。皮下注射から8週間後に腫瘍を採取し、腫瘍径や重量を計測、転移の有無などについて評価する。採取した腫瘍を固定した後、パラフィン包埋ブロックを作成する。H.E.染色により、CAFと非腫瘍部線維芽細胞の違いによる各大腸癌培養細胞の組織型、浸潤の程度、間質の量の変化などについて検討を行う。免疫組織化学染色を施行し、活性型線維芽細胞(筋線維芽細胞)の指標となるa-smooth muscle actin(a-SMA) やvimentinなどを評価する。本研究によりCAFによる間質の変化による癌浸潤先進部の形態変化のメカニズムを解明することにより、癌の転移に関するメカニズムがより明らかになることが考えられる。
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