研究課題/領域番号 |
26861116
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
平方 佐季 久留米大学, 医学部, 助教 (60597425)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 大動脈解離 / 血管 / 分子生物学 |
研究実績の概要 |
大動脈解離病態には不明な点が多く、マウスモデルの研究から増悪因子としてIL-6が報告されている。IL-6は、JAK/STAT3を活性化するサイトカインであり、大動脈解離組織では炎症細胞と血管平滑筋でSTAT3が活性化している。申請者は、マクロファージSTAT3活性化が、大動脈解離増悪に働くことを明らかにしたが、血管平滑筋STAT3の意義は不明であった。そこで、遺伝子改変マウスで予備的検討を行ったところ、平滑筋STAT3を抑制すると大動脈解離が増悪し、平滑筋STAT3が解離抑制に働く可能性を見いだした。平滑筋細胞におけるSTAT3の機能には、増殖促進とアポトーシス抑制があり、血管平滑筋細胞は血管傷害部位に遊走・増殖して組織修復で中心的な役割を果たす。以上から、平滑筋細胞STAT3は、細胞の増殖・維持を通じて大動脈の強化・修復を促進すると仮説し、そのメカニズムの解明が、病態の理解と診断・治療戦略開発に重要な知見を与えるとの確信のもと、本研究を着想した。 (平滑筋STAT3活性操作の大動脈解離への効果)BAPN及びアンジオテンシンⅡの持続投与により大動脈解離を発症するマウスモデルを用いて、大動脈解離への効果を検討した。その結果、遺伝子操作により平滑筋STAT3を抑制すると大動脈解離が増悪し、平滑筋STAT3を活性化すると大動脈解離が抑制された。 (大動脈解離発症に先立つSTAT3依存性の変化)マウスの大動脈解離組織を用いて、BAPN及びアンジオテンシンⅡ投与前後、各遺伝子型で、遺伝子発現変化及び組織の解析、免疫染色を行った。発症前に炎症応答が起こり、血管平滑筋機能が低下していることが示唆され、平滑筋STAT3活性化により、外膜の膠原繊維や非平滑筋細胞が増加していた。以上から、血管平滑筋STAT3は、平滑筋機能維持に働き、血管壁構造を維持することで大動脈解離を抑制していると考えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大動脈解離病態を解明する上で、平滑筋STAT3が組織保護的な役割を担っているという仮説の検証を目的に研究を進めた。 (平滑筋STAT3活性操作の大動脈解離への効果)BAPN及びアンジオテンシンⅡの持続投与により大動脈解離を発症するマウスモデルを用いて、遺伝子操作マウスで大動脈解離の発症を検討した。平滑筋特異的STAT3ノックアウトにより平滑筋STAT3を抑制すると下行大動脈解離が増悪し、平滑筋特異的にSTAT3活性化抑制因子であるSOCS3をノックアウトして平滑筋STAT3を活性化すると弓部大動脈解離が抑制された。 (大動脈解離発症に先立つSTAT3依存性の変化)マウス大動脈解離組織を用いて、BAPN及びアンジオテンシンⅡ投与前後、各遺伝子型で、トランスクリプトーム解析、組織解析、免疫染色を行った。トランスクリプトーム解析では、BAPN及びアンジオテンシンⅡ投与により炎症応答に関与する遺伝子の発現が増加し、血管平滑筋機能に関わる遺伝子の発現が低下していた。BAPN及びアンジオテンシンⅡ投与前のマウス大動脈組織では、ピクロシリウスレッド染色で、平滑筋STAT3活性化マウスの外膜の膠原繊維が増加し、αSMAと活性化STAT3の多重免疫染色で非平滑筋細胞の増加を認めた。以上から、大動脈解離では、その発症前に炎症応答と血管平滑筋機能が低下が生じているが、平滑筋STAT3は、外膜の膠原繊維の増加を促すなど、平滑筋機能維持の方向に働くことで、大動脈解離を抑制していると考えた。このことは、平滑筋STAT3が組織保護的な役割を担っているという本研究の仮説を強化する結果であり、更なる具体的なメカニズムの解明が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、平滑筋STAT3依存性の変化を追求することで、血管平滑筋STAT3が大動脈解離を抑制するメカニズムを解明する。これまでの結果で、平滑筋STAT3を活性化すると増加した膠原線維は、壁強度を規定する細胞外マトリックスの中心的な構成成分である。血管平滑筋細胞STAT3が細胞の増殖・維持を通じて大動脈の強化・修復を促進するという本研究の仮説から、この膠原線維の増加が大動脈壁の強化を促していると考えた。以上から、平滑筋STAT3依存性の血管強度の変化を解析する。すでに、マウス大動脈の血管強度を測定する技術は習得しており、平滑筋特異的STAT3活性化マウスを用いて強度を測定し、BAPN及びアンジオテンシンⅡ投与前後、各遺伝子型で比較する。また、大動脈壁で増加している非平滑筋細胞も大動脈の強化・修復に関与すると考え、細胞種を特定するために免疫染色を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度で十分な手技を確立できたことで、実験回数を減らすことができ、使用する試薬などの節約が可能であったためと考える。
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次年度使用額の使用計画 |
研究の更なる飛躍を目指す上で、マウスの購入や飼育費、組織培養試薬や生化学実験の消耗品費用及び人件費として使用する。
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