研究課題
大動脈解離病態には不明な点が多く、マウスモデルの研究から増悪因子としてIL-6が報告されている。IL-6は、JAK/STAT3を活性化するサイトカインであり、大動脈解離組織では炎症細胞と血管平滑筋でSTAT3が活性化している。申請者は、マクロファージSTAT3活性化が、大動脈解離増悪に働くことを明らかにしたが、血管平滑筋STAT3の意義は不明であった。そこで、遺伝子改変マウスで予備的検討を行ったところ、平滑筋STAT3を抑制すると大動脈解離が増悪し、平滑筋STAT3が解離抑制に働く可能性を見いだした。平滑筋細胞におけるSTAT3の機能には、増殖促進とアポトーシス抑制があり、血管平滑筋細胞は血管傷害部位に遊走・増殖して組織修復で中心的な役割を果たす。以上から、平滑筋細胞STAT3は、細胞の増殖・維持を通じて大動脈の強化・修復を促進すると仮説し、そのメカニズムの解明が、病態の理解と診断・治療戦略開発に重要な知見を与えるとの確信のもと、本研究を着想した。(平滑筋STAT3活性操作の大動脈解離への効果)BAPN及びアンジオテンシンⅡの持続投与により大動脈解離を発症するマウスモデルを用いて、大動脈解離への効果を検討した。その結果、遺伝子操作により平滑筋STAT3を抑制すると大動脈解離が増悪し、平滑筋STAT3を活性化すると大動脈解離が抑制された。(大動脈解離発症に先立つSTAT3依存性の変化)マウスの大動脈解離組織を用い、BAPN及びアンジオテンシンⅡ投与前後、各遺伝子型で、遺伝子発現変化、組織解析、免疫染色を行った。発症前に炎症応答が生じ、平滑筋STAT3活性化により外膜の膠原繊維や線維芽細胞が増加し、血管強度が増加した。平滑筋STAT3活性化は外膜の線維芽細胞増加により膠原繊維増加、外膜を強化を促し大動脈壁の細胞外マトリックス構造を補強し、大動脈壁を保護することで大動脈解離を抑制すると考えた。
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European Heart Journal
巻: 37巻10号 ページ: 1933
http://dx.doi.org/10.1093/eurheartj/ehw075