本研究の目的は特発性肺線維症(IPF)合併肺癌の線維化及び発癌機構の解明にある。両者の機序に共通する因子として、ムチン蛋白遺伝子の影響による粘液過剰産生機構の関与が近年注目されている。研究内容としては①患者検体の収集とプロファイルの作成、間質性肺炎合併肺癌患者に対する家族性肺線維症(FIP)についての病歴聴取、②肺癌切除標本を用いた免疫組織学的染色(IHC)によるMUC1/4/5AC/5Bと臨床病理学的因子の関連性についての検討、③患者標本を用いたMUC5BSNP(re35705950)発現解析、④ヒト肺癌細胞株及び線維芽細胞を用いた抗がん剤を含む各種蛋白ムチン阻害剤の感受性解析(MTT assay)、⑤ヒト肺癌細胞株によるMUC5B蛋白ウエスタンブロッティング、である。IPFを併存する肺癌切除後患者7名にFIPの病歴聴取を行ったが、いずれも家族歴はなかった。2009年1月から2010年3月までの期間における非小細胞肺癌完全切除例176例のうちIPF合併例は19例(10.2%)であった。IHCでは5%以上の腫瘍細胞が染色される場合、陽性と判断した。MUC1/4/5AC/5Bの陽性率は85%/47%/28%/57%であり、MUC1陰性例及びMUC5B陽性例で有意に予後不良であった(p=0.007、p=0.033)。IPF合併と各種MUC蛋白発現の間に有意な相関は認めなかったが、MUC5Bを除きいずれも腺癌での発現が有意に高頻度であった。肺癌切除標本376例の癌部、非癌部を採取し、上記SNPタイピングで危険対立遺伝子(ヘテロ)を示したものはなく、全例G/Gホモであった。MTT assayではerlotinibによる線維芽細胞抑制効果が顕著であった一方、Clarithromycin、Planlulkast、Ipratropiumなどの粘液産生抑制薬による増殖抑制効果はみられなかった。また8種の肺癌細胞株及び線維芽細胞を用いたMUC5Bのウェスタンブロッティングではいずれも発現を認めなかった。
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