研究実績の概要 |
腫瘍の血行性転移には血液中の循環腫瘍細胞(CTC)の関与が示唆される。我々はこれまで肺癌患者の末梢血及び肺静脈血のCTCを定量し、遠隔転移との関連を見出したが、転移に関わる明確な証拠はない。肺静脈は肺の血液が全身循環へとつながる部分で、肺癌(幹)細胞が含まれているとすればこの部分に高濃度に含まれると考えられる。本研究では肺静脈血中の非血球系細胞の分離を行い、得られた細胞の生存能・増殖能と腫瘍形成能を確認し、肺癌の転移再発に関わる因子を明らかにすることを目的としている。 本年度は肺静脈血からの非血球系細胞分離と培養条件の検討、細胞の生着能と増殖性細胞の確認、末梢血における遺伝子発現解析の予備検討を行った。原発性肺癌の肺葉切除例を対象とし、術前に末梢血液を、術後に切除肺葉から還流する肺静脈より肺静脈血を採取した。末梢血液は血漿分離後、Ficollを用いた密度勾配遠心法にて単核球分画を分離し、保存液に懸濁後3分して凍結保存した。肺静脈血は採取後半量から速やかに非血球系細胞を分離し培養した。残りの半量はCellSearchでのCTC数の定量に用いた。CTC測定と細胞分離に十分な量の血液があった例のうち増殖性細胞が得られたのは2例であった。そのうちの1例は盛んな細胞増殖能を示し8か月にわたり継代可能であった。肺静脈血のCTC数と培養した細胞の生着には明らかな相関は見られなかった。遺伝子発現解析については、末梢血単核球分画よりRNAを抽出しRT-PCRによりCK19, CEA, CD133の発現について予備検討を行った。今後は今年度得られた増殖性細胞について生物学的性質の確認と機能的解析を行いたい。
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