心房性ナトリウム利尿ペプチドの血管保護作用による革新的癌治療法の開発

2014 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 26861136
• 研究機関: 独立行政法人国立循環器病研究センター
• 研究代表者: 野尻 崇 独立行政法人国立循環器病研究センター, 研究所, 特任研究員 (50570553)
• 研究期間 (年度): 2014-04-01 – 2016-03-31
• キーワード: 癌転移

研究実績の概要

【背景】これまでに我々は、急性心不全治療薬である心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP) を肺癌周術期に投与することによって、術後合併症を有意に軽減できること、さらには術後無再発生存率を調べた結果、ANP投与群では非投与群（手術単独群）と比較して有意に良好な成績であったことを報告した(91% vs. 75%, P<0.01; UMIN4880)。
【目的】ANPの術後再発抑制効果について、その詳細な作用機序を明らかにすること。
【方法及び結果】ANPの受容体であるGC-Aを持たないマウスメラノーマ(B16/F10)を、尾静脈より注入する血行性転移モデルにおいて、ANP投与によって肺転移は有意に抑制された。同様の実験を血管内皮特異的GC-Aノックアウトマウスで行うと、野生型マウスと比較して肺転移は顕著に多く、血管内皮特異的GC-A過剰発現マウスでは、逆に肺転移は顕著に少なかった。以上より、ANPの作用標的は血管内皮細胞であることが判明した。
続いて血管内皮細胞に対する作用について調べる為、ヒト肺動脈血管内皮細胞(HPAEC)に炎症物質であるリポ多糖(LPS)刺激を行うと、E-selectinの発現が増加し、ヒト肺癌細胞との共培養において、HPAECに接着する癌細胞が顕著に増加した。本実験系に対してANPを前処置すると、E-selectinの発現増加が抑制され、HPAECに接着する癌細胞も顕著に減少した。
【考察とまとめ】以上より、肺癌手術において、血中に放出された遊離癌細胞の一部が、炎症により血管内皮細胞へ接着しやすくなるが、ANPは血管を介してこのシステムを抑制することにより、癌転移予防効果を発揮したと考えられた。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

ANPの血管保護作用による癌転移抑制効果について、詳細な作用機序について、論文報告を行い（PNAS,2015）、抗癌剤に伴う副作用に対するANPの保護効果についても、一部論文報告を行うことができた。

今後の研究の推進方策

今後は、ANPと抗癌剤との併用に関して、血管制御による抗腫瘍効果を中心に、実験を進めていく予定である。

次年度使用額が生じた理由

平成26年度末に、研究資金が不足しないよう、物品購入を一部控えた為、多少の余剰が生じた。

次年度使用額の使用計画

詳細な機序解明の為、血管内皮細胞のin vitroの系における定量PCR法、Western blot法を用いた解析を行う予定であり、それに必要な物品を購入予定である。また平成26年度中に行った研究成果については、積極的に国内外に学会発表を行う予定であり、出張費用を
計上予定である。

備考

2015年2月24日に国立循環器病研究センター研究所にて上記の通り、プレスリリースを行った。

研究成果

• [雑誌論文] Atrial natriuretic peptide protects against cisplatin-induced acute kidney injury. (2015)
  • 著者名/発表者名: Nojiri T, Hosoda H, Kimura T, Miura K, Ishikane S, Tokudome T, Shintani Y, Inoue M, Miyazato M, Okumura M, Kangawa K.
  • 雑誌名: Cancer Chemotherapy and Pharmacology 巻: 75 ページ: 123-129.
  • DOI: 10.1007/s00280-014-2624-4.
  • 査読あり / 謝辞記載あり
• [雑誌論文] Atrial natriuretic peptide prevents cancer metastasis through vascular endothelial cells. (2015)
  • 著者名/発表者名: Nojiri T, Hosoda H, Tokudome T, Miura K, Ishikane S, Otani K, Kishimoto I,Shintani Y, Inoue M, Kimura T, Sawabata N, Minami M, Nakagiri T, Funaki S, Takeuchi Y, Maeda H, Kidoya H, Kiyonari H, Shioi G, Arai Y, Hasegawa T, Takakura N, Hori M, Ohno Y, Miyazato M, Mochizuki N, Okumura M, Kangawa K.
  • 雑誌名: Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 巻: 112 ページ: 4086-4091.
  • DOI: 10.1073/pnas.1417273112.
  • 査読あり / オープンアクセス / 謝辞記載あり
• [雑誌論文] Atrial natriuretic peptide inhibits lipopolysaccharide-induced acute lung injury. (2014)
  • 著者名/発表者名: Nojiri T, Hosoda H, Tokudome T, Miura K, Ishikane S, Kimura T, Shintani Y, Inoue M, Sawabata N, Miyazato M, Okumura M, Kangawa K.
  • 雑誌名: Pulmonary Pharmacology and Therapeutics 巻: 29 ページ: 24-30.
  • DOI: 10.1016/j.pupt.2014.01.003.
  • 査読あり / 謝辞記載あり
• [学会発表] 心房性ナトリウム利尿ペプチドの固形癌に対する肺転移抑制効果 (2014)
  • 著者名/発表者名: 野尻崇、細田洋司、徳留健、三浦浩一、石兼真、木村亨、望月直樹、宮里幹也、奥村明之進、寒川賢治
  • 学会等名: 第18回日本心血管内分泌代謝学会学術総会
  • 発表場所: 横浜
  • 年月日: 2014-11-21 – 2014-11-22
• [学会発表] 心房性ナトリウム利尿ペプチドの固形癌に対する肺転移抑制効果－臨床応用に向けて－ (2014)
  • 著者名/発表者名: 野尻崇、新谷康、木村亨、井上匡美、寒川賢治、奥村明之進
  • 学会等名: 第55回日本肺癌学会総会
  • 発表場所: 京都
  • 年月日: 2014-11-14 – 2014-11-16
• [学会発表] Atrial natriuretic peptide prevents cancer metastasis through inhibition of cancer cell adhesion to vascular endothelial cells (2014)
  • 著者名/発表者名: Nojiri T, Hosoda H, Tokudome T, Kishimoto I, Miura K, Mochizuki N, Miyazato M, Okumura M, Kangawa K.
  • 学会等名: The Conference on Bioactive Peptides for Cell-Cell Communication 2014
  • 発表場所: Kyoto
  • 年月日: 2014-09-10 – 2014-09-12
• [学会発表] 心房性ナトリウム利尿ペプチドの血管保護作用による癌転移予防効果－機序解明に向けて－ (2014)
  • 著者名/発表者名: 野尻崇、細田洋司、徳留健、三浦浩一、木村亨、井上匡美、新谷康、南正人、澤端章好、竹内幸康、前田元、宮里幹也、望月直樹、奥村明之進、寒川賢治
  • 学会等名: 第52回日本癌治療学会学術集会
  • 発表場所: 横浜
  • 年月日: 2014-08-28 – 2014-08-30
• [学会発表] Clinical significance of atrial natriuretic peptide in cancer metastasis (2014)
  • 著者名/発表者名: Nojiri T, Hosoda H, Tokudome T, Miyazato M, Shintani Y, Inoue M, Takeuchi Y, Maeda H, Kangawa K, Okumura M.
  • 学会等名: 第54回日本呼吸器学会学術講演会
  • 発表場所: 大阪
  • 年月日: 2014-04-25 – 2014-04-27
• [学会発表] 心房性ナトリウム利尿ペプチドの血管保護作用による新しい癌転移予防戦略 (2014)
  • 著者名/発表者名: 野尻崇、細田洋司、徳留健、三浦浩一、石兼真、井上匡美、新谷康、木村亨、南正人、澤端章好、中桐伴行、舟木壮一郎、竹内幸康、前田元、宮里幹也、望月直樹、寒川賢治、奥村明之進
  • 学会等名: 第114回日本外科学会定期学術集会
  • 発表場所: 京都
  • 年月日: 2014-04-03 – 2014-04-05
• [備考] 心臓ホルモンによるがん転移予防効果のメカニズムの解明、並びに多施設臨床研究開始のお知らせ
  • URL: http://www.ncvc.go.jp/pr/release/007403.html