【背景】癌患者の死亡原因の多くは“転移”によるものであり、予後の改善には転移の抑制的制御が極めて重要である。しかし、現行の癌治療は、殺細胞効果を発揮する化学療法や、分子標的剤等の原発巣を標的としたものが中心であり、“転移”を標的とした治療法は少ない。心房性ナトリウム利尿ペプチド(Atrial natriuretic peptide; ANP)は、急性心不全治療薬として臨床応用されており、これまでに様々な心血管保護作用を有することが報告されている。我々は肺癌手術の際、術中より3日間ANPを持続投与することによって、術後心肺合併症を有意に軽減できること、さらには術後無再発生存率を有意に改善できることを報告した。 【目的】ANPの肺癌術後再発抑制効果について、詳細な作用機序を明らかにすること。 【方法及び結果】ANPの受容体であるGC-Aを持たない癌細胞株である、マウスメラノーマの肺転移モデルに対して、ANPは強い転移抑制効果を発揮したことから、ANPは直接癌細胞に効かなくとも、癌転移抑制作用を有することが示唆された。同様の実験を血管内皮特異的GC-Aトランスジェニックマウスで行うと、対照マウスと比較して肺転移が有意に減少し、血管内皮特異的GC-Aノックアウトマウスでは逆に肺転移が有意に増加したことから、ANPは血管内皮細胞に作用し、癌転移抑制効果を発揮することが明らかとなった。またヒト肺動脈血管内皮細胞を用いたin vitro実験結果より、ANPは炎症によって誘導される血管E-セレクチンの発現を抑制し、癌細胞が血管に接着するのを防ぐことによって、癌転移抑制作用を発揮することが明らかになった。 【考察とまとめ】以上の研究成果を基に、我々は、多施設共同無作為化比較試験(JANP study)を2015年9月から開始し、ANPの“抗転移作用”について前向きに検証を行っている。
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