研究課題
再灌流障害の主な原因は、産生されたフリーラジカルによる細胞障害である。当研究では、フリーラジカル消去(TEMPO)をミセル化した新たなDDS化フリーラジカル消去剤であるTEMPO-RNPを用いて、脳虚血再灌流障害に対する脳神経・血管保護療法の開発を目指している。過去に報告した研究では、経静脈的投与による脳梗塞縮小効果を証明したが、本研究では、近年、頸部及び頭蓋内動脈へカテーテルと血栓回収デバイスを経動脈的に誘導する技術が標準化したことから、TEMPO-RNPを再開通後に経動脈的に直接頭蓋内動脈に注入する動物実験プロトコルを確立した。その上で、TEMPO-RNPの効果を検証するために下記の実験を実施した。1. TEMPO-RNPの最適な投与量と投与濃度の検証2. TEMPO-RNPの脳血管保護効果の検証3. TEMPO-RNPの脳神経保護効果の検証これらの実験及び解析では、脳虚血再灌流障害に対して、DDS化フリーラジカル消去剤であるTEMPO-RNPを経動脈的投与する動物実験プロトコルを確立し、最適な投与方法、投与時期、投与量を決めることができた。確立したプロトコルをもとに、TEMPO-RNP投与群とPBS投与群の群間比較試験を行い、TEMPO-RNPの脳神経・血管保護効果を証明できた。今後は、TEMPO-RNPの脳神経・血管保護効果のメカニズムの検証により、TEMPO-RNPの有効性を科学的に解明できると考えている。
2: おおむね順調に進展している
これまで行った実験の成果を以下に記する。研究進捗は順調であり、仮説に合致した興味深い研究成果が得られている。1. TEMPO-RNPの最適な投与量と投与濃度の検証:TMEPO-RNPの投与量と5群に振って、脳梗塞体積と神経学的所見、及びRNPの脳内分布を評価した結果、最適な投与濃度を確定することができた。また総頚動脈から投与したRNPが脳梗塞中心部から周辺部へ集積することを確認した。2. TEMPO-RNPの脳血管保護効果の検証:マウス脳虚血再灌流モデルを用いて、Evans blueの腹腔内投与により脳血液関門の破綻を評価したところ、TEMPO-RNP投与群はコントロール群(PBS群)でBBBの破綻が有意に抑制された。3. TEMPO-RNPの脳神経保護効果の検証:脳梗塞体積の測定では、TENPO-RNP群はPBS群に比べて有意に脳梗塞を縮小させ、神経症状を改善させた。4. アポトーシスの評価:TUNEL染色によるアポトーシスの評価をしたところ、TEMPO-RNP群では脳梗塞周辺部において有意に神経細胞のアポトーシスを抑制した。
今後は、TEMPO-RNPの脳神経・血管保護効果のメカニズムを検証するために、アポトーシス細胞の評価の他、現在、血液脳関門を構成するoccludin、VE-cadherinの評価、Microgliaや反応性astrocyteの評価、酸化ストレス評価としてiNOS、8OHdG、HNEの評価を実施中である。また、血管内皮細胞、反応性アストロサイト、ミクログリア、神経細胞などがから発現するサイトカイン発現などの解析をreal-time PCRにより解析する予定である。今後の解析により、TEMPO-RNPの有効性を科学的に解明することができると考えている。これらの動物モデルを用いた基礎的な研究は、TEMPO-RNPの臨床応用を検証する上で重要であり、当研究成果を元に、脳梗塞急性期のt-PA静注療法、及び血栓回収療法後の再灌流障害に対する新たな治療法の開発に貢献できると考えている。
平成27度の研究進捗は順調であり、平成27年度の実支出額としては計画通りの支出であった。平成26及び27年度分の助成金からの次年度使用額が生じているが、現在も研究進捗は順調であり、平成28年度に適切な研究の実施と予算の執行を見込んでいる。
マウス脳虚血再灌流モデルを用いた、脳虚血再灌流障害に対するTEMPO-RNPの有効性のメカニズムの検証として、免疫組織学的解析、サイトカイン発現解析、フリーラジカル及び活性酸素代謝物の解析を行う予定である。その成果は国内外の学会、及び論文として発表する予定である。
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