我々は虚血性脳血管障害のなかでも遅発性神経細胞死という現象について着目した。遅発性神経細胞死のモデルとしてマウスの両側総頚動脈一時結紮(BCCAO)モデルを用いた。我々は以前にRAGEという分子が、BCCAOを行うと脳の血管内皮細胞表面上での発現が増加することを報告しいる。RAGEにはesRAGEと呼ばれる可溶型デコイフォームがあり、esRAGEはRAGEのVドメインにリガンドが結合するのをブロックしている。このesRAGEを血液中に投与することにより神経細胞死を抑制できないかと考え研究を行っている。 まず、esRAGE配列より2か所にヘパリン結合サイトが存在することが示唆された。このことをプレートアッセイと培養細胞を用いた実験により、この部分でesRAGEは脳の内皮細胞のヘパラン硫酸プロテオグリカンと結合し血管内皮上に存在するという結果を得た。 次にパラバイオーシスという手技を用いて実験を行った。パラバイオーシスとは2匹のマウスの皮膚を外科的に縫い合わせることで血流を循環させるモデルでesRAGETgマウスとWTマウスとをとパラバイオーシスした場合にはWTへesRAGEが循環することになる。これを用いてesRAGEが血流中に多く存在することによって遅発性神経細胞死が抑制されることを海馬CA1領域の免疫染色により明らかにした。また、血液脳関門キットを用いてesRAGEはRAGE依存的に脳内へ移行し神経細胞を保護しているのではないかということが示唆された。 本年は、遅発性神経細胞死ではなく、脳梗塞(MCAO)モデルにおいてesRAGEを投与したマウスにおいて梗塞巣の範囲が減少することを確認した。また、パラバイオーシスではなく、ポンプによるeaRAGEの静脈内持続投与が遅発性神経細胞死の抑制、MCAモデルにおけるMCA領域の脳梗塞範囲の減少に有効であることを明らかにした。
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