本研究の目的は、損傷脊髄においてregulatory T cellの活性化を介する細胞性免疫の発現機序とその環境因子としてのマイクロRNAとCTLA4の機能を解明することである。坐骨神経引き抜き損傷ラットモデルを用いた実験を計画したが、個体間のばらつきを生じたため、clip-compressionによる脊髄損傷モデルを採用した。CTLA4-Igを用いた実験では、損傷脊髄におけるT細胞性免疫が急性期ではなく亜急性期に強く発現する結果であり、臨床応用という観点から細胞性免疫を標的とした治療計画には限界があった。そこで、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)に対するモノクローナル抗体であるベバシズマブを用いた新たな研究を計画した。ラット脊髄損傷急性期にベバシズマブを全身投与することで、下肢運動機能(BMS scale、inclined-plane test)は有意に改善し、組織学的には損傷中心部における神経細胞脱落、空洞形成が減少した。CD3/CD68/GFAPによる免疫染色では、炎症細胞浸潤および反応性アストロサイト発現の抑制が確認された。また、急性期にトマトレクチンを用いた微小血管評価を行うと、新生血管増生および血管透過性亢進が抑制されていた。以上より、脊髄損傷急性期においてVEGFは、血管新生や血管透過性亢進を介して炎症細胞浸潤や浮腫を惹起することで二次損傷を拡大する可能性が示唆された。本結果については、2015年に学会発表を行っている。
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