くも膜下出血は、脳血管分岐部に形成される嚢状病変である脳動脈瘤の破裂により発症する死亡率が高い疾患である。今日までの申請者らの検討より、脳動脈瘤が脳血管分岐部に負荷される高い血行力学的ストレスにより誘発される脳血管の慢性炎症疾患である事が明らかとなってきた。しかし、主にヒト脳動脈瘤臨床症例の血行力学的検討から、一旦形成され増大過程にある脳動脈瘤や破裂した脳動脈瘤ではその内部は脳動脈瘤誘発時に認められる高い血行力学的ストレスとは異なり低い血行力学的ストレス負荷状態や乱流である事も明らかとなっている。上記のような予備知見に基づき、まず、ヒト未破裂脳動脈瘤臨床画像を使用し流体解析を行うことにより既報の通り脳動脈瘤の内部では正常な脳血管と比較して著明に低い血流ストレス状態(低いずり応力状態)であることを確認した。引き続き、初代培養ヒト頸動脈内皮細胞を使用して上記流体解析から得られた低いずり応力や乱流負荷下での内皮細胞での遺伝子発現プロファイル変容につきRNAシーケンス法で検証した。その結果、低ずり応力や乱流負荷のもとでは炎症細胞の接着や遊走を制御する遺伝子群の有意な上昇が認められた。続いて、脳動脈瘤モデルラットを使用し検証を行った。ここでは、マクロファージが脳動脈瘤の発生進展に重要であるという以前の知見に基づき、培養内皮細胞に誘導された遺伝子群からMCP-1を選択し免疫組織化学にて病変での発現パターンを検証した。結果、MCP-1は脳動脈瘤形成とともに脳動脈瘤病変部の内皮細胞で発現誘導が生じその発現が脳動脈瘤の進展過程でも維持された。以上の結果より、脳動脈瘤病変では血行力学的ストレスの負荷状況の著明なな変化にもかかわらずMCP-1の発現が内皮細胞で維持されそれによりマクロファージ浸潤とマクロファージに制御される炎症反応が病態形成進展過程で持続する事が示唆された。
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