ヒト多能性幹細胞から誘導したドパミン神経は、パーキンソン病に対する細胞移植治療の有力なツールになることが期待されている。細胞移植治療において、移植したドパミン神経細胞が有効性を発揮するには、脳内の神経細胞と機能的なシナプスを形成する必要がある。本研究では、まずトランスシナプストレーシング法を用いて、移植したドパミン神経細胞が、移植後にシナプスを形成するべき脳内の神経細胞にインテグリンα5が選択的に発現していることを明らかにした。次に、雌性成体ラットにエストラジオール誘導体(エストラジオール安息香酸エステル)を全身持続投与することで、この神経細胞に発現するインテグリンα5が活性化し、細胞接着が亢進することを明らかにした。さらに、パーキンソン病モデルラットにエストラジオール誘導体を全身持続投与し、ヒトiPS細胞由来ドパミン前駆細胞を移植することで、移植したドパミン神経細胞と脳内の神経細胞のシナプス形成が促進され、異常行動の早期改善に寄与することを明らかにした。また、ヒト死後剖検脳を用いた解析において、インテグリンα5の被殻での遺伝子発現は、正常高齢者とパーキンソン病患者で変化がなかった。この結果は、今回の実験動物を用いた研究成果をヒトに応用できる可能性を示唆している。また本研究では、既存薬が細胞移植治療の質的向上に寄与することを示しており、本研究をモデルケースとして、細胞移植治療の効果向上を目的とした創薬研究が進展することが期待される。
|