幹細胞の増殖・分化といった生理機能は、ニッチと呼ばれる細胞微小環境により制御されていると考えられている。神経幹細胞ニッチの主要な構成分子のひとつがグリコサミノグリカン(GAG)糖鎖であるが、神経細胞分化制御に関与するGAGの機能的役割については不明な点が多い。そこで、本研究では、GAG糖鎖が神経幹細胞ニッチにおける構造的中核として、糖鎖構造依存的に神経幹細胞の分化過程を制御していることを明らかにすることで、中枢神経損傷に対する新たな細胞移植治療への応用の足がかりを作ることを目的としている。 最終年度は、神経幹細胞の未分化性の維持や分化過程に関わるGAG糖鎖構造の推定を進めるために実験をおこなった。神経細胞とグリア細胞はいずれも神経幹細胞から分化するため、それぞれの神経系細胞の単離培養系を調製し、GAG糖鎖構造の多様性を生み出す各種修飾酵素の発現プロファイルを定量的PCR法により詳細に解析した。コンドロイチン硫酸/デルマタン硫酸糖鎖修飾については、神経幹細胞に比べて、アストロサイト、およびオリゴデンドロサイトでイズロン酸を含む高硫酸化糖鎖単位合成に関わる酵素の発現が高く、オリゴデンドロサイトでは特に高いことがわかった。ケラタン硫酸糖鎖修飾については、神経幹細胞に比べて、神経細胞、およびオリゴデンドロサイトで高硫酸化ケラタン硫酸糖鎖単位合成に関わる酵素の発現が高いことがわかった。へパラン硫酸糖鎖修飾については、神経幹細胞に比べて、神経細胞で特殊な高硫酸化糖鎖単位合成に関わる酵素の発現が特に高いことがわかった。また、特定のへパラン硫酸糖鎖単位の脱硫酸化に関わる酵素の発現がアストロサイトで特に高いことがわかった。
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