脳梗塞の機能回復に向けての治療法として神経幹細胞等の移植療法が考えられているが,その際の適切な移植時期等の検討は行われていない.現在までに報告されている基礎実験では梗塞作成後1週間以内での細胞移植が行われているが,亜急性期での移植による効果を検討した報告はないため,本研究では梗塞作成の3週間後の亜急性期に細胞を移植する実験を行った.具体的には,マウスにおいて40分間の一過性中大脳動脈閉塞にて梗塞巣を作成,その3週間後にiPS細胞由来の神経幹細胞を脳内巣周囲に移植,適切な時期に行動解析(staircase test)を行い,移植後11週後の脳切片での組織学的検討を行った.行動解析においては,梗塞後8週(移植後5週)において,細胞移植群の方が非移植群に比して有意に機能障害が少なかったが(unpaired t-test p= 0.029),その後非移植群の機能障害も改善傾向となり,移植11週後では両群に差は認められなかった.細胞移植群での移植11週後での細胞の生存を検討したところ,6匹中2匹で生存を確認し得たが,4匹では細胞は生着していなかった.また移植群と非移植群の間で,梗塞+萎縮体積に有意な差は認められなかった.以上の結果より,梗塞後しばらく時間が経過した亜急性期においてもiPS細胞由来の神経幹細胞移植により機能改善効果を認めたが,非移植群の機能も時間経過とともに自然回復したために,移植による効果は機能回復が早期に促進されるということであった.また移植群での機能回復は細胞の生存とは関連してなかったため,移植後早期の機能回復促進効果は,移植細胞が新規の神経回路を構築するneural replacement効果ではないと類推される.
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