研究実績の概要 |
頭蓋底に好発する脊索腫と軟骨肉腫とは組織形態が非常に類似しており、しばしば鑑別すること困難であり、客観的な鑑別の指標が長い間求められてきた。私たちはこれまでに行った別の研究において頭蓋底脊索腫の遺伝子学的背景についてのデータの蓄積を有しており、これらと比較する目的で、今回頭蓋底軟骨肉腫について網羅的な遺伝子学的解析研究を行った。当施設において手術をされた頭蓋底軟骨肉腫7例において、比較ゲノムハイブリダイザーション法により全染色体コピー数を、ダイレクト・シーケンス法によりIDH1/2の点突然変異の有無を、さらに免疫染色法によりbrachyuryタンパク質の発現の有無を評価した。その結果、比較ゲノムハイブリダイザーション法では、染色体 8q21.1, 19, 2q22-q32, 5qcen-q14, 8q21-q22, 15qcen-q14の増幅などを認め、脊索腫とは異なる傾向を有することがわかった。また、IDH1の点突然変異が、7例中5例(71.4%)に認められた。 もっとも多い点突然変異はR132Sであった。一方 IDH2の点突然変異は1例も認めなかった。比較のために、頭蓋底脊索腫においてもIDH1/2を検索したが点突然変異は認められなかった。脊索腫の多くで陽性であったbrachyuryタンパク質については、軟骨肉腫全例において発現を認めなかった。 これらの結果より、まず頭蓋底軟骨肉腫の多くが、軟骨肉腫の中でもconventional central chondrosarcomasの範疇に属するということが明らかとなった。また、IDH1/2の点突然変異とbrachyuryタンパク質の発現の両方を調べることは脊索腫と軟骨肉腫の鑑別に大いに役立つと考えられた。
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