薬剤(テトラサイクリン)/放射線照射などの外来刺激条件下で複製するoncolytic virus (OV)を、神経幹細胞に感染させ、brain tumor stem cell(以下、BTSC)由来の脳腫瘍モデルで治療効果を検討する本研究の前段階として、本年度は各種予備実験を行った。実験では慶應義塾大学大学院先端医科学研究所 遺伝子制御学教室に協力頂いた。同教室のプロトコールに基づき、マウス脳実質におけるsubventricular zoneから神経幹細胞を採取し、神経幹細胞の培養・継代技術を習得した。野生株神経幹細胞の長期継代は困難であるが、今回も野生型では十分量の神経幹細胞を得ることは困難だった。In vitro培養条件下での神経幹細胞への感染対策(抗菌薬の種類や採取手技の迅速化、contaminationを招く手技の回避)や更なる至適培養条件の検索も課題だろうと考えられた。研究実施計画では外来刺激条件下で複製開始する新たなoncolytic herpes virus株の作成を本年度の予定としていたが、上述の理由で十分量の安定した神経幹細胞が得られていない状況であることから、現時点では条件複製型の新規oncolytic virus作製は計画中の状況である。また、不安定な細胞発育状況での免疫不全マウスへのin vivo神経幹細胞移植実験は倫理面・コスト面から許容できないものと判断した。本年度は免疫不全マウスを用いた移植実験は行わず、現在も安定した細胞培養条件を探索している。実際には、その他にもマウスの脳解剖、研究員の安定した神経幹細胞採取技術の習得、顕微鏡下での迅速な細胞採取を目標とした顕微鏡手技の修練、FACS解析やコンフォーカル顕微鏡での組織免疫染色手技の習得など、実験の確実性を向上させ、今年度の実験は終了した。
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