脊柱の形成過程では、椎骨の軟骨性骨原基と椎間板の非軟骨性組織の繰り返し構造が形成される。硬節の分子マーカーとして知られる転写因子Paired box gene 1 (Pax1)は、椎骨の軟骨形成が開始すると非軟骨性の椎間板に限局して発現するが、椎間板の形成過程におけるPax1の役割は不明である。研究代表者は、本研究の申請までにPax1が軟骨細胞の成熟過程に対して抑制的に作用することを見出しており、Pax1による転写制御は脊柱の繰り返し構造の形成にも寄与していると考えられた。そこで本研究では、椎間板細胞でのPax1の役割と分子ターゲットについて解析し、Pax1による転写制御が脊柱の組織構築においてどのように作用しているのかを検討した。 まず、脊柱の形成過程におけるPax1の発現パターンを詳細に解析した結果、椎間板でのPax1の発現は、軟骨細胞分化に必須の転写因子であるSry box 9 (Sox9)の発現と共局在していた。また、軟骨でPax1を過剰発現するトランスジェニックマウス胚(Col2a1-Pax1 Tg)では、椎骨の軟骨形成が著しく抑制され、椎骨と椎間板の繰り返し構造も消失していた。Col2a1-Pax1 Tgの軟骨組織において顕著な発現低下が認められた軟骨性基質分子の発現制御領域を解析した結果、Pax1がその発現制御領域に直接的に結合すること、更にSox9による転写活性化がPax1により抑制されることが明らかになった。また、Pax1をノックダウンした椎間板細胞を軟骨分化誘導条件で培養すると、特定の軟骨性基質分子の発現がコントロールと比較して顕著に上昇した。 本研究の成果からPax1が発現を制御する新規の分子ターゲットが明らかとなり、Pax1がSox9と共に軟骨性基質分子の発現調節の役割を担うことにより、軟骨形成期以降の脊柱の組織構築に寄与していることが示唆された。
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