研究課題/領域番号 |
26861196
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
西庄 俊彦 徳島大学, ヘルスバイオサイエンス研究部, 助教 (40444723)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 肉腫 / 酸性環境 / pH / V型ATPase / 細胞・組織特異性 / アイソフォーム / 脂肪腫 / 脂肪肉腫 |
研究実績の概要 |
悪性腫瘍組織においては酸性環境が形成される事が知られており、この酸性環境は悪性腫瘍にとって重要な微小環境と推察されている。我々は酸性環境を形成する因子としてVacuolar H+-ATPase (V型ATPase)に着目した。V型ATPase は13種類のサブユニットからなるプロトンポンプで細胞内外の酸性環境の形成に寄与する。このサブユニットには細胞・組織特異性をもつアイソフォームがいくつか存在することが知られている。かつてV型ATPaseは普遍的に発現する酵素と考えられてきたが、そのアイソフォームの特異性が細胞・組織の形質に深く関わることが明らかになりつつある。興味深いことに、悪性腫瘍組織の細胞外pHは酸性を示すこと、またその酸性環境が腫瘍の増殖、浸潤、転移に関与することが明らかになりつつある。これらの報告から肉腫においてもV-ATPaseが何らかの役割を演じている可能性を示唆するが、その詳細なメカニズムはほとんど不明である。 本研究では、脂肪肉腫におけるV型ATPaseの役割を検討した。脂肪腫と脱分化型脂肪肉腫の遺伝子発現を検討したところ、アイソフォームa3、d1, B1, B2, C1, C2, D2, F, G1の発現が高いことが明らかとなった。脂肪肉腫細胞株であるSW872でも同様の発現パターンを示した。これらアイソフォームは脂肪肉腫における酸性環境形成になんらかの役割を果たしていることが示唆された。これらのアイソフォームの解析が肉腫の新規治療の開発に寄与することが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成26年度は、徳島大学倫理委員会の承認を得た上で、切開生検または腫瘍摘出時に保存した凍結保存検体よりmRNAを抽出した。脂肪系腫瘍は良悪性双方の組織が手に入れることが可能であり、まずRT-PCRにて脂肪腫と脱分化型脂肪肉腫でV型ATPaseのアイソフォームのmRNAの発現を比較した。その結果、脂肪肉腫に高く発現するV型ATPaseのアイソフォームを絞り込むことができた。しかし患者組織からのRNAの回収は、血液などの不純物などの影響か質の良いものが得られにくく、リアルタイムRT-PCRを行うと結果にばらつきができるため確定的な結果を得られていない。上記理由からターゲットを定め切れておらず、MMT assay, wound healing assay, invasion assay、アクリジンオレンジを用いた実験やノックダウン細胞株の樹立に至っていない。一方、組織の採取や保存の工夫でRNAの回収の質は向上しており、ターゲットはa3とd1に定まりつつある。これらの研究結果は平成27年度の研究を進展させるうえで有用な研究基盤となりえる。以上より、本研究は現在までやや遅れているが、今後進展すると考える事が出来る。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は平成26年までに得えられた特異的アイソフォームの役割を中心に研究を推進していく。SW872を用いて、ターゲットアイソフォームのノックダウン細胞株をstable cell lineとして樹立する。ノックダウンの効果はRT-PCRやウエスタンブロッティングで確認する。またこれらの細胞の増殖能、浸潤能、転移能をMMT assay, wound healing assay, invasion assayを行い検討する。可能ならば他の細胞株でも行う。肉腫細胞のV型ATPase をノックダウンしたstable cell line ができれば、実際にマウスに摂取する。まずは背部皮下に植えて、増殖能、転移能とともに酸性環境形成能を見る。増殖能は実際の大きさを計測、転移能は肺転移や肝転移の数の計測を、酸性環境形成能についてはアクリジンオレンジの投与を行い、検討する。最後にV型ATPaseの特異的阻害剤としてバフィロマイシン、FR167356が入手可能で有り、これらを肉腫転移モデルに投与して、腫瘍体積、転移巣の数についての検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
やや研究が遅れているため、予定していたstable cell line作成などの実験ができていないため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
ターゲットはほぼ定まったと考え、stable cell lineの作成を行う。
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