総合せき損センターに入院した新規脊髄損傷患者528名の詳細な臨床データを多変量解析等の手法を用いて多角的に分析した。その結果、脊髄損傷患者のうち約半数の患者に血糖値の上昇が起こっていることが判明し、入院時に高血糖を呈する患者の運動機能回復が著しく低下していることが明らかになった。 また、高血糖モデルマウスの損傷脊髄からセルソーターで選択的に回収したミクログリアを解析すると、高血糖状態では正常血糖状態に比べて脊髄損傷直後のミクログリアが過剰に活性化し、炎症性免疫応答が亢進していた。これに伴い、高血糖状態では神経系細胞のアポトーシスが増加し、運動機能障害を引き起こす脱髄性変化も著しく増加していた。 さらに、脊髄損傷後にインスリンを用いて高血糖マウスの血糖値をコントロールすると、高血糖による病態の増悪が抑制され、正常な運動機能回復が起こった。これらの結果は、急性高血糖が脊髄損傷後の運動機能回復を阻害していることを証明している。 本研究成果は、脊髄損傷後の運動機能回復能を十分に引き出すためには、急性期高血糖の適切なコントロールが重要であることを示しており、2014年10月1日(水)(米国東部時間)に米国科学雑誌『Science Translational Medicine』で発表した。 その後は、ミクログリア以外の脊髄構成細胞と脊髄損傷後に脊髄に浸潤してくる炎症細胞に対する高血糖の影響を網羅的に解析を行っている。さらに、非骨傷性頚髄損傷患者を同一損傷高位ごとに抽出し、入院時血糖と運動機能回復の相関関係について解析を進めている。
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