最近の幹細胞研究の発展により特にiPS細胞を用いた再生医療の早期実現化が期待されている。 これまでに、様々なiPS細胞を誘導する方法は報告されているが、まだまだ改良の余地があり、安全で高性能なiPS細胞を効率的に誘導する技術の確立が必須である。本研究では、種保存性が高く様々な機能を有するβcateninの機能に着目した。βcateninは細胞間接着以外にも遺伝子発現における転写調節にも大きく関わっている。しかしながら、未だにβcateninによる転写活性化とリプログラミングの間におけるメカニズムは解明されていない。そこで、本研究ではβcateninがiPS細胞誘導に関わるリプログラミング機構の解明及び、誘導法の開発を行った。 平成28年度では、前年度までに得た知見から、多能性幹細胞およびリプログラミングにおいてCBP/beta cateninシグナルカスケードの選択的な活性化が及ぼす影響を調べた。異なる多能性幹細胞において実際にβcateninとCBPまたはp300の相互作用状態が異なることを明らかにした。また、それらの違いがβcateninの選択的な遺伝子発現制御を調節し、多能性状態の維持に大きく関わっていることを明らかにした。また、ヒト線維芽細胞を用いて、いくつかの化合物によるCBP/beta cateninシグナルカスケードを特異的に活性化することによるiPS細胞へのリプログラミングへの影響を観察した。マウスと同様、ヒト細胞においても初期のiPS細胞の出現効率の向上が認められたことから、iPS細胞へのリプログラミングにおいてbeta catenin/CBPシグナルカスケードは種を問わず、重要であることが示唆された。
|