研究実績の概要 |
平成26年度および平成27年度は,「成体ラットに対する吸入麻酔薬の曝露は,たとえ短時間であっても海馬および海馬依存性記憶学習を障害しうる」という仮説に基づき,8~10週齢の成体ラット(雄性,Sprague-Dawley系統)を用いて,曝露時間を5分間とする超短時間の吸入麻酔薬(イソフルランおよびセボフルラン)曝露モデルを作成し,行動学的実験,電気生理学的実験,生化学的実験を行って検証した.若年成体雄性ラットに対する5分間の3.6%セボフルランによる全身麻酔は,遠隔期(7日後)に可逆的な海馬依存性記憶学習の障害を生じた.また,5分間の麻酔後の動脈血ガス分析では,pH, 酸素濃度,二酸化炭素濃度は著しい変化は示さなかった.7日目には海馬記憶学習の障害と一致して,海馬SC/CA1におけるLTPの抑制が生じていた.海馬SC/CA1シナプスにおけるGluA1含有AMPA型グルタミン酸受容体の膜への挿入を検証したところ,同様にシナプトソーム分画のGluA1が増加していた.加えて文脈的学習後のシナプトソーム分画のGluA1の増加率が減少しており,シナプスにおけるGluA1含有AMPARの増加によって,シナプス後膜への挿入が抑制されていることが強く示唆された.一方,5分間の2.0%イソフルランによる全身麻酔では,有意な変化を認めなかった.ここまでの成果は、第61回日本麻酔科学会総会のシンポジウムの特別発表の中で報告を行い、欧州麻酔科会議2014年度総会にても演題発表を行なった.現在、英文査読誌に投稿し、査読中である.
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