麻酔薬の神経毒性に関する研究では思うような結果が出なかったため、麻酔科関連薬剤による癌細胞に対する影響の研究を行った。 非オピオイド性鎮痛薬の効果が十分でない癌性疼痛に対して様々なオピオイドが用いられているが、モルヒネやフェンタニルが癌細胞の増殖やアポトーシスに与える影響についての基礎研究がいくつか報告されている一方で、弱オピオイドであるトラマドールに関する報告は見られない。一方で近年緩和ケアにおいてトラマドールは頻繁に用いられている。そこでヒトの肺癌である非小細胞癌由来細胞株H358を用いて、トラマドールおよびその活性代謝物であるOデスメチルトラマドールが癌細胞の増殖能とアポトーシスに与える影響について、MTTアッセイでviabilityを、フローサイトメトリーを用いてアポトーシス及び細胞増殖能を、モルヒネ、フェンタニルとともに測定した。 MTTアッセイにてモルヒネ、トラマドールおよびOデスメチルトラマドールは細胞のviabilityを濃度依存性に低下させたが、フェンタニルは影響を与えなかった。フローサイトメトリーを用いた検討では、早期アポトーシス、後期アポトーシス、細胞増殖能は全ての薬剤でcontrol群と差がなかった。 今回の研究により、トラマドールはモルヒネと同様にヒト肺癌細胞株H358に対して、抑制的に働くことが示唆された。その機序としてアポトーシスの増加及び増殖能の低下を考慮し検討したが、有意な結果ではなかった。
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