過分極活性化陽イオン電流(Ih)は主に心臓や中枢神経系において発達や周期的な調律形成に重要な役割を担っており、不整脈やてんかん、神経障害性疼痛との関連も指摘され、治療薬の標的としても近年注目を集めている。我々は出生後早期のマウス脳スライスを作成し、線条体Cholinergic interneuronでwhole-cell patch clamp法を中心に電気生理学的手法を用い、成長発達に伴うIhの変化と、小児麻酔で使用される頻度の高い吸入麻酔薬セボフルラン投与による影響を解析した。Cholinergic interneuronは線条体のアセチルコリン分泌を司り、運動調節や認知機能において重要な役割を担うと共に、視床から多くの入力を受け感覚応答にも関与するとされている。 日齢7~28のマウス線条体Cholinergic interneuronにおいて、日齢増加に伴う神経細胞膜の状態変化とIhの絶対値増加を認めた。セボフルランは濃度依存性にIhを抑制し、Ih 活性化抑制によるactivation curveの偏位を認めたが、日齢間ではセボフルランの効果に差を認めなかった。内向き整流性カリウムチャネル電流(Kir)は中枢神経系の調律形成にIhと同様に重要とされるが、Kir遮断薬であるバリウムを用いた実験結果から、セボフルランのKirへの直接作用は小さく、またセボフルランのIhに対する作用へのKirの影響は小さいことが示された。更にセボフルランは、感覚応答に重要とされるCholinergic interneuronのrebound activationを抑制し、cell-attached recordingsの解析では、Ihが関与する生理的条件下での発火頻度を変化させることが判明した。セボフルランによるIh抑制は、出生後早期の線条体における神経ネットワークに影響を及ぼす可能性がある。
|