研究実績の概要 |
前立腺癌の進展において、上皮間葉転換(epithelial-mesenchymal transition, EMT)および去勢抵抗性は、致死的な前立腺癌に至る致命的なステップである。進行性前立腺癌は、去勢抵抗性となりやすいことが知られており、EMTのマスターレギュレーターであるTwist1が、アンドロゲン受容体(androgen receptor, AR)の発現を制御することで、前立腺癌の進展に加え去勢抵抗性の獲得にも寄与していると考えられるが、EMTと去勢抵抗性の関連についての研究はほとんど見られない。そこで、本研究では、EMTと去勢抵抗性のクロストークに焦点をあてて、本研究を行った。 まず、EMT促進因子であるTGF-βの去勢抵抗性獲得への影響を検討した。TGF-β受容体発現前立腺癌細胞である22Rv1細胞にTGF-βを添加し、Twist1やARの発現を検討したところ、Twist1ならびにARの発現の亢進を認めた。また、長期間 TGF-β処理した22Rv1細胞は、浸潤能の亢進と共に、アンドロゲン除去下での細胞増殖の亢進を認め、去勢抵抗性の獲得が確認された。続いて、マトリゲル被覆boyden-chamberを用いて、マトリゲルを通過した細胞群を数サイクル選択することで、マトリゲルへの浸潤性の高い22Rv1細胞派生株(22Rv1/HI)を樹立した。22Rv1/HI細胞も、浸潤能の亢進と共に、Twist1やARの発現亢進と、アンドロゲン除去下での細胞増殖の亢進を認め、去勢抵抗性の獲得が確認された。以上より、EMT形質の獲得は、去勢抵抗性の獲得を促進するものと考えられた。 一方、LNCaPゼノグラフトモデルの去勢抵抗性組織においては、ARおよびTwist1、fibronectin、vimentinの発現亢進を認めるとともに、LNCaP細胞の去勢抵抗性細胞では、親株に比べ浸潤能の亢進を認めた。これらより、去勢抵抗性の獲得は、EMTを促進すると考えられ、去勢抵抗性とEMTの間には、Twist1/ARシグナルの干渉を通じた相互作用があることが示唆された。
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