研究実績の概要 |
本研究では、低酸素状態における腎癌のマイクロRNA発現プロファイルを作成し、発現変動するマイクロRNAを基点とした分子ネットワークの解明を目指している。低酸素培養条件化の腎癌細胞株からマイクロRNA発現プロファイルの中でmiR-23b/27bクラスターmiRNAに着目し、その機能解析と標的遺伝子の探索を行った。腎細胞癌(淡明細胞癌)61検体と正常腎組織61検体においてmiR-23b/27bの発現を測定した。また臨床病理学的所見や予後と、miR-23b/27bの発現の関連について解析を行った。miR-23b, miR-27b導入腎癌細胞株を用いて細胞機能解析を行った。in silico解析にてmiR-23b/27bの標的遺伝子の探索を行った。miR-23b/27bの発現は、正常腎に比べ、癌組織で有意に低下していた(P < 0.0001, P < 0.0001)。深達度がpT3以上であった群はpT2以下であった群に比べ(P = 0.0241, P = 0.0241)、異型度(grade)がG3の群ではG2以下の群に比べ(P = 0.0233, P = 0.0233)、それぞれmiR-23b/27bの発現が有意に低値であった。miR-23b/27bの発現が高値であった群は低値であった群に比べ、有意な全生存期間の延長が認められた(P = 0.0183, P = 0.0253)。miR-23b, miR-27bを腎癌細胞株に核酸導入すると、増殖・遊走・浸潤能の抑制効果を認めた。in silico解析にてmiR-23b, miR-27bは、いずれもcytokine-cytokine receptor interaction pathwayに属する遺伝子群に強く関与することが明らかとなった。このpathwayに含まれるmiR-23b, miR-27bの共通の標的候補遺伝子には、EGFR・METなどのがん遺伝子が含まれていた。miR-23b/27bクラスターは、腎細胞癌で発現が抑制されており、癌抑制的microRNAとして機能することが示唆された。また、これらのmicroRNAの発現測定は腎細胞癌予後予測因子として有用である可能性が示された。
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