研究課題/領域番号 |
26861281
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
古目谷 暢 横浜市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 客員研究員 (60721082)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 男性不妊 / 精子形成 / マイクロ流体 / 組織培養 |
研究実績の概要 |
(1)生体内環境を再現した次世代型in vitro組織培養装置の開発 マイクロ流体システムを用いて生体内の微小循環系を模倣した組織培養回路(マイクロ流体デバイス)を作製した。微小循環を再現するには、精巣組織を培養液の流れに留置する方法と、精巣を培養液の流れとはスリットで分離されたスペースに留置する方法がある。両者を比較検討したところ、後者の方法が精子形成に効果的であった。そこで生体内環境をより忠実に再現するためデバイスの設計デザインを改良し、流速や培養液、培養温度などの検討をおこなった。その結果、従来の気相液相境界部培養法と比べて精子形成効率を高め、精子産生を6か月もの長期にわたって維持することができた。さらには、培養下で得られた精子で顕微授精を行ったところ産仔を得ることにも成功した。 (2)精子形成プロセスのリアルタイム観察 マイクロ流体デバイスは、軽量小型、薄型透明であるため、高倍率でのリアルタイム観察が可能である。この特徴を生かして(1)で作製したデバイスで、生殖細胞の形態変化の観察を行った。生殖細胞が減数分裂を開始するとGFPを発現し、分化成熟するにつれてGFP発現部位の形態が変化するアクロシンGFPトランスジェニックマウスの精巣を用いたところ、培養したまま生殖細胞が分化成熟していく過程を確認することができた。これによって培養精巣の精子形成がどこまで進展したのか、最適な顕微授精の時期がいつなのか判断することが可能になった。 (3)in vitro精巣作製装置の開発 (1)で作製したマイクロ流体デバイスを用いて精巣構成細胞を再凝集させた細胞塊の培養を開始した。精細管構造の再構成および精子形成の実現をめざし、最適な条件を検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「(1)生体内環境を再現した次世代型in vitro組織培養装置の開発」に関しては、精子形成効率を高め、精子産生を6か月もの長期にわたって維持できる培養装置の開発に成功しており当初の予定よりも順調に推移している。 「(2)精子形成プロセスのリアルタイム観察」と「(3)in vitro精巣作製装置の開発」に関しては、H26年度は(1)の実現に時間を取られたためやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
「(1)生体内環境を再現した次世代型in vitro組織培養装置の開発」に関する今後の方策は以下の通りである。マイクロ流体システムには、微小循環系を人工的に再現するがゆえの大きなメリットがある。1つ目は、特定の物質の濃度勾配を作れる点である。2つの流路を精巣を挟んで作製し、それぞれの流路において特定の物質の濃度を変えることによって、精巣が暴露される物質の濃度にグラデーションができる。この特徴を生かして、様々な液性因子の精子形成への影響を検討する。2つ目は流路内を流れる培養液の組成を経時的に変化させることが可能な点である。組成の異なる培養液が流れる流路を合流させて1つの流路にして精巣組織を培養すると、それぞれの培養液の流速を調整することで精巣組織に到達する培養液の組成を自在に変更できる。生体内での精子形成は精巣全体では一定に保たれているが、精細管単位では未熟な生殖細胞が多い場所から精子細胞が多い場所まで混在しており、それらが周期的に変動する。この精子形成進行のバラつきと周期的なサイクルの原因として、精子形成に関与する因子への暴露時期が精細管レベルでは場所毎に厳密に制御されている可能性が考えられる。そこで、様々な因子への暴露を経時的に変化させることによって、各種因子の精子形成の開始や進行段階毎の制御への影響を検討する。この他、マウスでの結果を踏まえ、ラット、霊長類の精巣を用いた実験を行っていく予定である。 「(2)精子形成プロセスのリアルタイム観察」に関しては、アクロシントランスジェニックマウス精巣をタイムラプス撮影でより詳細に観察していく。これにより生殖細胞の分化様式のリアルタイム観察の実現を目指していく。 「(3)in vitro精巣作製装置の開発」に関しては、精巣構成細胞を再凝集させた細胞塊の培養を継続し、精子形成の実現を目指していく。
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