高齢化が急速に進行するのに伴い、前立腺肥大症の罹患率、患者数は増加傾向にあり、社会的な対策の必要性が増している。内服治療として現在α1ブロッカー、広義の抗アンドロゲン薬などが用いられている。しかし、アンドロゲンの作用を低下させても、前立腺の上皮細胞数は減少するが、間質細胞数は影響を受けない。ヒト前立腺肥大症の病理組織は間質成分が70%を占めるため、抗アンドロゲン薬による前立腺体積の減少は限定的である。このため、間質成分を標的とした新しい治療薬の開発が求められているが、間質有意の増殖が起こるメカニズムは明瞭ではない。私たちは、胎児の泌尿生殖洞を成体ラットに移植することで、ヒト類似の間質優位な前立腺肥大モデルが得られる事実に着目し、胎生期の因子が前立腺肥大発症に関与する可能性について検討してきた。 その結果、前立腺に胎生期に発現する因子であるGDNFが、上記ラットモデルおよびヒト前立腺肥大症患者において発現していることをRT-PCRおよび免疫染色で確認した。また、GDNFはこれまでの報告からRETシグナル経路をその下流に持つことが知られていることから、ヒト由来前立腺細胞株を用いてRET癌原遺伝子およびその下流シグナル分子であるGZF1遺伝子の発現の有無をRT-PCR法を用いて確認したところ、正常前立腺細胞由来細胞株において発現が確認された。前立腺内戚の体積の増加とGDNFおよびその受容体であるGFRA、RET遺伝子の発現強度との間に相関があるかどうかをqPCR法を用いて解析したところ、スピアマン相関係数において相関を見ることができた。これらより、ヒト前立腺肥大症患者においてGDNFおよびその下流経路が前立腺体積増大に関連している可能性が示唆された。
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